原発性肺癌手術症例の治療成績

―インターネット上で公開された5年生存率の問題点―

 

綾部貴典、松崎泰憲、枝川正雄、清水哲哉、原 政樹、富田雅樹、二宮浩憲、鬼塚敏男

 

T. Ayabe, Y. Matsuzaki (助教授), M. Edagawa, T. Shimizu, M. Hara, M. Tomita, H. Ninomiya, T. Onistsuka (教授)

 

キーワード:肺癌手術症例、治療成績、5年生存率、インターネット

 

889-1692 宮崎県宮崎郡清武町大字木原5200

宮崎大学医学部第2外科

TEL: 0985-85-2291, FAX: 0985-85-5563

 

 

 

 

はじめに

インターネット上に各施設や病院の最新の治療成績が情報公開されるようになり、5年生存率や手術症例数がマスコミや週刊誌等で取り上げられるようになってきた。われわれは、肺癌外科症例の自験データを、できるだけ簡素化して解析し、各病院や施設が独自にインターネット上で公開されている肺癌患者の手術成績と比較し、その治療成績の公開方法に関しての問題点について考察する。

 

I. 対象と方法

 

期間は、1980年1月から2002年12月までの当院当科で切除された肺癌手術症例875症例のうち、最近の術後5年生存率を算出できる1997年度50例、更に、それより5年前の1992年度60例、10年前の1987年度30例の計143例(15〜81歳、平均63.3±11.4歳)を抽出し、臨床病理学的因子や予後が明らかでない不適切症例28例を除いて、115例を対象とし、その患者背景を表1に示した(追跡率80.4%)。対象例の性別は、男性80例、女性35例で、年齢は、15歳〜80歳(平均63.2±11.4歳)であった。組織型は、腺癌69例、扁平上皮癌32例、その他14例(大細胞癌8例、腺扁平上皮癌2例、細気管支肺胞上皮癌2例、平滑筋肉腫1例、小細胞癌1例)であった。病理組織分類は、日本肺癌学会の病理組織分類に従って行われた(1)。原発性肺癌の臨床病期分類は、1999年に日本肺癌学会により改訂されたTNM分類に統一して検討した1)。p-T因子は、T0 1例、T1 34例、T2 43例、T3 23例、T4 14例であった。p-N因子は、N0 57例、N1 18例、N2 36例、N3 2例、NX 2例であった。病理病期別は、病期IA 20例、IB 19例、IIA 7例、IIB 9例、IIIA 35例、IIIB 13例、IV 12例であった。手術術式は、肺摘除術14例、二葉切除12例、一葉切除85例、部分切除4例であった。縦隔のリンパ節郭清は、後側方切開下に、右側ではR2a、左側では動脈管は切離し大動脈の脱転は行わず、R2aの郭清を標準的に行っている。

予後の解析は、外来通院中の患者は、外来診療記録より、他院通院中もしくは中断の患者は、電話にて確認した。死亡例は、その年月日と再発の有無、癌死か他病死かを確認した。生存率は、術死、在院死、他病死は、全て癌死と同様に扱った。生存時間分布関数は、手術日から最終生死確認日までを生存時間、最終生死確認日において全死因をもっての死亡をイベント、生存を打ち切りとした。生存期間は、29日〜182ヶ月(生存期間中央値MST 1471±1180日、平均49ヶ月)で、予後に関して、調査時点での5年以上の生存は、53例(46.1%, 53/115)、5年以内の死亡は、62例(53.9%, 62/115)であった。死因は、癌死22例(35.4%, 22/62)、他病死40例(64.5, 40/62)であった。外科切除例における術死院内死亡率は、2.6%(3/115)であった。予後の解析は、1)年代 (1987年度、1992年度、1997年度)、2)性別、3)組織(腺癌と扁平上皮癌)、4)病理病期により、郡分けして行った。累積生存率は、Kaplan-Meier法によって算出した。2群間の有意差検定は、Logrank検定を用いた。連続変数は、平均値±標準誤差で表記した。データの処理・解析には、Excel 2000, StatView ver 5.0を用いた。

いずれの解析もp<0.05をもって有意差ありと判定した。

 

II. 結果

 

1)手術成績(表2)

各年度、病理病期、性別、組織別における、1年毎の生存率を、表2に示した。5年生存率は、1987年度41.4±9.1%(n=25)、1992年度35.6±6.2%(n=48)、1997年度56.0±7.0%(n=42)であった(Logrank検定, p=0.2555)。 10年生存率は、1987年度24.1±7.9%(n=25)、1992年度8.5±3.6%(n=48)であった。男女別では、男性(n=80)の5年、10年生存率は、42.8±5.3%、25.0±6.1%であったのに対し、女性(n=35)の5年、10年生存率は、63.2±7.3%、58.0±8.4%と有意に高かった(P=0.0147)。組織型別では、腺癌(n=69)の5年、10年生存率は、47.2±5.9%、38.5±7.8%であったのに対し、扁平上皮癌(n=32)の5年、10年生存率は、50.8±8.9%、28.6±11.3%であった(P=0.9012)。病理病期別5年生存率は、病期IA 81.0±8.6%(n=20)、IB 73.7±10.1%(n=19)、IIA 57.1±18.7%(n=7)、IIB 55.6±16.6%(n=9)、IIIA 28.6±7.6%(n=35)、IIIB 15.4±10.0%(n=13)、IV 16.7±10.8%(n=12)であった(P<0.0001)。

 

III. 考察

 

原発性肺癌は、近年、発生率、死亡率ともに着実に増加しており、我が国の死因として、1993年には男性では、全性疾患死の第一位となっている2)。しかし、現在の手術成績は、病期 Iにおいては5年生存率70-80%であるものの、病期 IIIA ではこれが20%台となる。Mountainら3)は、病期IA (T1N0M0) 61%, IB (T2N0M0) 38%, IIA (T1N1M0) 34%, IIB (T2N1M0, T3N0M0) 24-22%, IIIA (T3N1M0, T1-3N0M0) 9-13%, IIIB (T4N0-2M0, T1-4N3M0) 3-7%, IV (T1-4N1-3M1) 1%と報告している。最近では、2001年に日本肺癌学会と日本呼吸器外科学会が合同で、全国の施設に対し1994年の1年間に実施した肺癌手術成績の調査報告を行った4)。この報告は、肺癌外科切除例の解析では、世界最大規模のものである。

当科における3ヵ年分115例の治療成績を、白日らが1994年度に呼吸器外科認定施設・関連施設303施設7408例を全国集計したデータ4)や、国立がんセンター1施設における1962年〜1995年の34年間3043例のデータ5)と比較したものが、表3である。これをみると、全国集計は7000例、国立がんセンターは3000例を大規模集計して、どちらも肺癌治療成績に関して、かなり正確で、信頼性の高いデータといえる。われわれの集計した症例の規模は、100例程度であり、5年生存率を平均値±標準誤差で表記した。先の2施設とは症例数が2桁ほど異なっている。得られた生存率データは、標準誤差は大きいもの、平均値は、近似していた。われわれの症例の検討結果、5年生存率は、年代別、組織別には有意差は認められず、性別では女性の方が男性より有意に良好であった。白日らの全国集計の論文においても、同様に女性の5年生存率が男性より有意に良好であった4)。これまで、女性肺癌の手術成績が、男性より良好であると報告68)がみられるが、松本らは、肺癌による死亡のみで検討すると、絶対治癒III期、相対治癒IIIA期腺癌においては、男女の予後に差は認められなかったと報告している9)。女性肺癌の予後が良好なのは、女性肺癌の生物学的悪性度の低さや早期で末梢発生の腺癌が多く含まれると考えられているが、むしろ、術後合併症の少なさや他病死率が少ないことによる要因が大きいと報告している9)。このように、患者背景における性別の項目 (例えば、構成される男女の割合が異なるなど) だけでも、また術後因子や解析手法によっても、得られる予後に影響してくるので、容易に施設間の予後の優劣を比較することには、危険が伴うと思われる。また、病期IIAの症例数は、どの施設においても他の病期より1桁以上少ないことが多いので、病期IIAの成績に関しては、ばらつきが多く、正確性に欠けると思われる。

最近では、肺癌の生存率に関しては、他の癌と同様に臨床論文として掲載される以前に、各施設が独自の調査法で得られた生存率のデータをいち早くインターネット上で開示している。インターネット上のホームページ上に情報公開を積極的に進める病院や施設の治療成績は、容易に閲覧することが可能となってきた。今や、患者側が施設を選ぶ基準として参考になる情報源として活用されている。また、表410)、表511)、表612)で示すように、マスコミや雑誌の特集などでも容易に掲載され、施設間のばらついたデータが一覧表として列記され、治療成績の優劣が論じられるようになってきた。国民のニーズがますますこのような情報開示の方向に傾斜して行くものと思われる。第三者の審査制度のないインターネット上では、生命論理的審査を負荷することなく報告されているようであるが、各自の責任において、正確な治療成績が公開されなければならない。患者データの統計手法や解釈は、各施設独自の都合のよいデータのみが先行して公開される危険性が伴うこともあるかもしれない。本来、第3者が厳しく審査する学術論文として採択された5年生存率のデータであるなら、出典も明白で、信憑性も高くなると思われるが、その審査の関門を通らずに、いきなりネット上に公開された施設独自の治療成績は、患者背景因子が同時に追記されていないことが多いので、その優劣を判断する決定的な材料に乏しいことが考えられよう。今後、インターネット上の情報公開であっても、その信頼性を高めるためには、学術誌の論文審査に耐えうる一定のレベルで、治療成績を情報公開するルール作りが必要となってくるかもしれない。

410)は、2004年4月号「日経メディカル」に掲載されたデータである。14施設のホームページ上で公開された、肺癌の施設別、病期別治療成績をまとめたものである。症例数は、93例から976例で、一部に症例数を開示していない施設もある。生存率は、病期IAは、74.8%〜86.7%、病期IBは、58.1%〜77.9%、病期IIAは、28.6%〜66.7%、病期IIBは、33.2%〜56.9%、病期IIIAは、7.9%〜29.1%、病期IIIBは、7.3%〜35.6%、病期IVは、0.0%〜37.5%であった。全病期における5年生存率は、25.3%(791例)〜59.0%(93例)であった。1995年の全がん協報告のデータによれば、病期Iは、63.8%、病期IIは、39.7%、病期IIIは、17.2%、病期IVは、8.1%で、全病期では31.9%(2509例)であった。病期別の症例数、患者背景、標準誤差が詳細に併記されていないので、施設間の成績の優劣を比較するのに、決定的な材料に乏しいと思われる。また、これらのデータの範囲は、われわれの施設の5年生存率(平均値±標準誤差)の上限値と下限値の範囲内に入っている。もし、各施設が標準誤差を併記したなら、より正確な治療成績の平均値の範囲が明らかになるものと思われる。

511)は、2004年5月9日16日号「Yomiuri Weekly」に掲載されたデータである。大阪府がん拠点病院の癌の治療成績のデータから肺癌のみの5年生存率データを抜粋し、まとめたものである。[限局]は、T1, T2, N0で、病期IA, IBの症例が含まれていると思われる。[限局]は、10例〜135例で、合計1724例、5年生存率は、65.7%(60例)〜89.8%(135例)の範囲で、平均53.2%(1724例)であった。[領域]は、N1, N2, T3, T4で、病期IIA, IIB, IIIA, IIIBの症例が含まれていると思われる。[領域]は、21例〜244例で、合計3830例、5年生存率は、17.4%(77例)〜29.4%(45例)の範囲で、平均11.2%(3830例)であった。「領域」は病期IIとIIIを併せたものと推察されるが、病期IIの症例数は一般的には少ないと思われるので、病期IIIの占める範囲が大きいと思われ、生存率が低く表れた原因と思われる。[遠隔]は、M1で、病期IVの症例と思われる。[遠隔]は、33例〜165例で、合計3716例、5年生存率は、0.0%(5例)〜3.8%(117例)の範囲で、平均1.8%(3716例)であった。[限局]と[領域]と[遠隔]を合わせた[全体]では、37例〜544例で、合計10286例、5年生存率は、25.0%(378例)〜37.3%(37例)の範囲で、平均14.2%(10286例)であった。症例数は大規模であるが、[限局]、[領域]、[遠隔]という病期の区分は、一般的な病期分類とはかけはなれており、また、患者背景や標準誤差も詳細に併記されていないので、施設間の成績の優劣を比較するのには、不十分で、非常に難しいと思われる。

612)は、2004年6月号「日経メディカル」に掲載されたデータである。肺癌の施設別、臨床病期別生存率[全国がん(成人病)センター協議会加盟施設]に関して、 19施設を集計し、うち100症例以上の13施設を分析し公開されたものである。病期Iでは、29症例〜119例の範囲で、合計673例、5年生存率は、69.1±0.8%(55例)〜82.8±0.7%(29例)の範囲で、平均64.9±0.1%(673例)であった。しかし、病期IIでは、症例数が、4例〜35例の範囲で、合計171例、5年生存率は、54.5±2.5%(33例)の施設もあれば、17.1±13.8%(35例)の施設もあり、平均37.7±1.0%(171例)であった。また、病期IIIでは、症例数が、14例〜55例の範囲で、合計600例で、5.3±47.4%(39例)の施設もあれば、32.3±6.8%(31例)の施設もある。平均18.3±0.8%(600例)であった。病期IVであるが、21例〜66例の範囲で、合計609例で、0.0±0.0%(21例)の施設もあれば、45.5±3.6%(33例)の施設もある。平均5.6±2.8%(609例)であった。表4や表5と比べると、表6は症例数や標準誤差が併記されているので、データのばらつきをみるのに参考になる。より正確なデータの表記がされているが、やはり、患者背景の詳細の記載がなく、病期分類のIA, IB, IIA, IIB, IIIA, IIIBがなされておらず、標準誤差が併記されていても、成績を施設間で比較するのには、危険が伴うと思われる。

以上、表4〜表6において、各病院、各施設において、得られた生存率に大きな開きがみられた。生存率に大きな格差が生じているが、患者背景が詳細に同時に開示されたものではなく、また標準誤差も併記されていないので、患者背景の相違に依るのか、医療技術の優劣が原因なのかは、早急には結論付けはできないと思われる。これらの肺癌治療成績のデータは、日経BP社の総合医療サイト、MedWaveにおいて、胃癌、乳癌などとともに、掲載されている(http://medwave.nikkeibp.co.jp)ので参考になると思われる。

このように、インターネット上に積極的に自験データを開示する際の問題点として、1)開示しているデータの計算方法がまちまちである、2)症例の集計期間がばらついている、3)病期の区切りが統一できていない、4)症例の対象範囲が開示されていない、5)施設間によって生じる格差を比較する際の統計学的有意性がほとんど考慮されていない、6)得られた生存率は、標準誤差の表記が示されていないことが多い、などがある。以上のことより、期待される生存率のばらつきの原因を正確によみとることが非常に難しい。従って、あるべき5年生存率開示のスタイルは、まず、A)対象として症例の年代の明記がされるべきである、B)追跡率も同時に開示されるべきである、C)生存率は、病期IA, IB, IIA, IIB, IIIA, IIIB, IV毎に、解析に用いた症例数と1年毎の1年〜5年生存率も同時に開示される方が望ましい、D)生存率は、統計学的表記、平均値±標準誤差で提示されるべきである。E)データを他施設と比較検討する際には、そのデータの出典を明示し、可能であれば統計学的有意差検定を行う。以上のルールが守られる必要があると思われる。

本来、癌の生存率を開示する場合の基本的最低条件として、たとえば、1)対象とされた症例の手術が行われた時期、2)症例数、3)性差、4)組織型、5)病理病期、6)手術因子(術式)などを明らかにする必要がある。患者背景が同じで、しかも同じ手術術式で行われ、解析方法や統計方法が同一条件ならば、各施設間のばらつきが生じた場合、臨床的手技上の実力の比較ができると思われる。しかし、実際の各施設の患者背景には、1)疾病、2)病期、3)病態、4)全身状態、5)合併症の有無、6)年齢、7)性差など多くの因子が含まれ、また、8)選択された手術法、9)術後合併症、10)手術の技術レベルの差、11)症例の数により、生存率が変わってくることを、当然、認識すべきである。予後を解析する際には、患者背景の特徴を施設単位で把握した上で、統計手法も標準的方法を使用して解析し、症例数や追跡率、欠失数も同時に明らかにしなければならない。各病院が、疾病、病期別の生存率を算出して、インターネット上で開示していくという姿勢は、各施設の医療技術向上のために、おおきな第一歩となる。また、従来型の後ろ向き研究ではなく、生存率算出に向けて、前向きな研究も始まっている。例えば、新潟県においては、2001年から2002年までの2年間の肺癌患者1211人を31項目にわたって登録し、外科切除後の5年生存率を県単位のレベルでより正確に算出していくいこうする試みを紹介した論文も13)。このように、開示されたデータは、論文や学会報告などを通して、格差の原因に関して討論される必要がある。

最後に、生存曲線を求める場合、従来は、手術日を起るべきであり、あるいは胸部異常陰影が指摘されて癌と最終確定診断された場合ならば、胸部異常陰影が指摘された日を起点にするべきとも思われる。また、術前癌が診断された日から、手術までの期間における術前治療の有無や内容(化学療法や放射線療法)により群分けして5年生存率を算出すべきである。また、術後の補助療法の有無と内容により、患者を群分けして算出しなければならない。また、術後無再発生存率の検討を加えたり、死亡確認までの間に、再発が確認された時点の日を求め、治療後、無再発期間や無症状期間(QOLを考慮した期間)を検討することも必要と思われる。再発してからの治療の有無やその方法、再発部位や再発様式(局再発、遠隔転移)なども重要な情報として検討されるべきであろう。

 

おわりに

患者への治療成績の公開は、今後の医療界の大きな課題ではないかと考えられる。インターネット上で公開されている肺癌の手術成績は、施設間の格差によりさまざまに異なり、こうした情報は、患者の病院選択にとっては極めて重大な情報となり得る。一方、5年生存率の公開には、集計の対象とした手術症例数、その患者背景、すなわち、集まる患者の傾向やばらつき、手術に対する治療方針や、手術内容、術後経過、術後補助療法の内容、各病院施設間の連携の程度、データの解析方法などが同時に公開されていないこともあるため、簡単には優劣がつけられない。データを比較検討する際は、標準誤差とリスク許容度も同時に考慮する必要があることを念頭におかなければならならい。

 

1)    患者背景

2)    肺癌治療成績

3)    当科と他施設との5年生存率の比較

4)    肺癌の施設別・病期別治療成績

5)    大阪府の癌拠点病院の5年生存率

6)    肺癌の施設別、臨床病期別生存率