がん疼痛の治療

目 次

はじめに

1. がん患者の痛みの診断と痛み 治療の目標設定

(1)痛みの原因

(2)痛みの診断

(3)痛み治療の目標設定

(4)各種鎮痛法と鎮痛薬投与経路の選択

 

2. 鎮痛薬使用の基本原則

3. 非ステロイド抗炎症鎮痛薬(NSAIDs )

(1)作用機序と適応

(2)経口・坐剤の投与が不能の場合

 

4. 燐酸コデイン経口投与法

5. ブプレノルフィン坐剤(レペタン坐 剤R )

6. 強オピオイド系鎮痛薬(モルヒネ) の経口投与

(1)モルヒネの一般的事項

(2)モルヒネ投与開始時期と注意事項

(3)モルヒネ投与時の薬品名の説明

(4)モルヒネ製剤の種類とその特徴

(5)経口モルヒネの投与量・投与回数

(6)モルヒネの副作用と対策

(7)モルヒネ減量の時期と方法

 

7. 投与経路による体内動態と痛みの臨 床

 

8. 病態別モルヒネ投与法

(1)食事が十分にできている場合

(2)時に点滴を必要とする場合

(3)経静脈栄養を受けている患者(注射 )の場合

 

9. モルヒネの非経口投与

(1)モルヒネ坐剤(アンペック坐剤R )

(2)持続皮下注入法の実際

(3)モルヒネの持続点滴静注

(4)硬膜外モルヒネ注入法

 

10. モルヒネ治療上の考慮すべき問題点

(1)非ステロイド抗炎症鎮痛薬の併用

(2)モルヒネが鎮痛効果あるか否かの判 定

(3)モルヒネの増量

(4)退薬症状(禁断症状)の防止

(5)抗がん療法とモルヒネ

(6)病態とモルヒネ血漿中濃度

(7)強度の痛みや突然の激痛の出現時

(8)外来患者へのモルヒネ処方

(9)モルヒネ治療のチェックポイント

 

11. 鎮痛補助薬

(1)鎮痛補助薬使用の目的と原則

(2)鎮痛補助薬の種類とその使用法

 

12. 難治性がん疼痛治療

(1)ケタミン持続点滴法による鎮痛法

(2)硬膜外局麻

(3)鍼灸治療

 

おわりに

参考図書一覧

痛み治療の相談窓口の案内

執筆者:平賀一陽

 

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最終更新日:960306, cis-admin@ncc.go.jp

 

がん疼痛の治療

はじめに

 がん疼痛は決して末期状態だけに出現するものではないので,どの病期においても痛 みに対する治療を行う必要があり,痛みの性状や原因についての検討を進めると同時 に,適切な鎮痛薬の投与を開始するべきである.

 

1.がん患者の痛みの診断と痛み治療の目標設定

1)痛みの原因

 

    患者の痛みの原因は,4つの要因に分けられる.

 

*           腫瘍自体(浸潤や転移など)が原因となった痛み

*           がんの治療に起因した痛み

*           腫瘍に関連した(担がん状態や全身衰弱に関係した)痛み

*           がんやがん治療に直接関係しないもので,偏頭痛,リューマチなどの痛み

 

 2つか3つが疼痛の原因となっていることや痛みの原因が次々に変わることも多い .

 

2)がん患者の痛みの“診断”

 

   効果的な治療を行うには,痛みについて適切な診断を行う必要がある.痛みが軽い うちに治療を開始すると,痛みの軽減が安全に,しかも早く得られる.

 

表1 がん患者の痛みの診断

 

*           患者の痛みの訴えを信じ,過小評価したり,無視したりしない(最も重要).

*           痛みの強さを把握する(痛みの強さを,軽度,中等度,高度に分けて把握する)

 

*           痛みによる活動制限の程度

*           痛みに起因した不眠の程度

*           過去に体験した痛みとの対比

*           投与中の鎮痛薬の効果の程度

 

*           痛みの性質を把握する.

 

*           患者の心理状態を把握する(不安,恐怖,絶望感,うつ状態など)

 

*           痛みの経過を詳しく聞く.

 

*           理学的診察を慎重に行う.

 

*           全身状態,痛みのある部位の状態,関連領域の神経学的所見など

 

*           検査は必要最低限とする

 

*           特定の治療を必要とする緊急事態(腸閉塞など)のないことを確認する.

 

*           薬以外の治療法の適応も考慮する.

 

3)痛み治療の目標設定

 

   痛み治療の目標を3段階(表2)に分けて段階的に痛みを取っていくのがよい.

 

表2 痛み治療の目標の設定

 

*           第一目標:痛みに妨げられない夜間の睡眠時間の確保

*           第二目標:安静時の痛みの消失

*           第三目標:起立時や体動時の痛みの消失

 

 非常に耐え難い強い痛みに緊急に対処する必要がある場合には,通常の投与開始量 より,やや多い量の鎮痛薬を注射し,痛みが緩和したら,漸減して適切量を求める方 法をとる.

 

4)各種鎮痛法と鎮痛薬投与経路の選択

 

 鎮痛薬を投与する時は,食事が出来ているか,中心静脈栄養中か,痛みの強さなど で鎮痛薬の投与経路が異なる.例えば,食欲の低下している患者に鎮痛薬を経口投与 しても,モルヒネの吸収は悪く,除痛状態が得られないことも多いので,投与経路を 変更するべきである.基本的には非ステロイド系抗炎症鎮痛薬(NSAIDs),NSAIDs+モ ルヒネ投与である.がん患者の疼痛に対する鎮痛法の種類と選択を表3に示した.

 

表3 痛みの治療法と鎮痛薬投与法の選択(経口摂取の可否と鎮痛薬投与法の選 択)

 

 痛みの治療法

 

*           鎮痛薬の全身投与

 

*           経口投与

*           非経口投与

*           経直腸:下痢,下血,人工肛門を有する患者には困難であることが多い

*           注射(持続皮下注,持続点滴):経口投与より副作用が少ない

*           硬膜外・髄腔内投与:強度の痛みの出現や鎮痛薬の副作用が継続する時に適応

 

*           神経ブロック:腹腔神経叢ブロック以外はしびれを伴うので,適さないこともある

*           放射線治療

*           脳神経外科的治療法,理学療法,心理療法など

 

 鎮痛薬投与法の選択(経口摂取の可否と鎮痛薬投与法の選択)

*           食事が十分に出来ている場合:経口

*           経口可能(時に点滴を必要):経直腸(経口)

*           少量の経口摂取(毎日点滴を必要):持続皮下注(経口,経直腸)

*           経口摂取不能(中心静脈栄養):持続点滴

 

2.鎮痛薬使用の原則

 

   がん患者の持続性の痛みを鎮痛薬によって効果的に治療するには,表4に示す基本 原則を守らなければならない.

 

表4 鎮痛薬投与の基本原則

 

*           なるべく簡便な経路で投与する.

*           時間を決めて規則正しく投与する(定時投与).

*           除痛に必要な十分量の鎮痛薬を投与する(適切量への調整).

*           鎮痛薬の副作用に対する防止策を確実に実施する.

 

 

 

 

3.非ステロイド系抗炎症鎮痛薬

  Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs=NSAIDs)

 

1)NSAIDsの作用機序と適応

 

  疾患や外傷などによって組織損傷を受けた局所に発痛物質のプロスタグランディン (PG)が生産されるので,アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬がPGの生合成を抑制 することにより,末梢受容レベルでの鎮痛作用を示す.副作用の代表は胃腸障害(PG は胃粘膜の細胞保護作用をもつ抗潰瘍薬である)であるが,H2-ブロッカ−を投与し ても,なお胃腸障害が出現する時は直腸内投与,最終的には静脈内投与とする.

 NSAIDsは骨転移の他,

 

1.肉腫やリンパ節の腫脹による筋・筋膜の機械的圧迫,

2.がん性リンパ管炎に起因する皮下組織の機械的伸展,

3.胸腔内や腹腔内の腫瘍の急速な増殖に伴う胸膜・腹膜の機械的伸展,

4.抗がん治療からくる炎症や硬結による痛みに有効である.

 

 NSAIDsが鎮痛効果を示す痛みか否か分からないときには,例えばフルルブピロフェ ン(ロピオン R)を静注し,痛みが消失するならば,NSAIDsが効果ある病態と診断し, NSAIDsが吸収されるように与える.使い慣れたNSAIDsを定期的(時間を定めて)に 投与する.

 

2)経口・坐剤の投与が不能の場合

 

 現在,静注できるNSAIDsはフルルブピロフェン(ロピオン R)だけである.ロピオ ン R1アンプルを生理食塩水50mlに混入させたものを1日に3〜4回点滴静注する (IVHを行っている場合は,側管から30分〜1時間かけて点滴投与する).また は,脂肪乳剤(イントラファット,イントラリポスなど)にロピオン Rを3〜4アン プル混入させたものをIVHの側管から24時間かけて点滴投与する方法も,発汗が 少なく,鎮痛効果が安定しているので,患者に好評である.

4.燐酸コデイン経口投与法

 燐酸コデインは弱オピオイド鎮痛薬の代表薬である.鎮咳薬としてよく使用される が,モルヒネのほぼ1/8の鎮痛効力をもつ.非オピオイド鎮痛薬ががん患者の痛みに 十分な効果がないときに選択すべき薬はリン酸コデインで代表される弱オピオイドか ,少量の強オピオイド(モルヒネ)である.燐酸コデインは,原末,10倍散,100倍 散,20mg錠が市販されている.燐酸コデインはNSAIDsと併用する.

 経口コデイン30mgはアスピリン650mgとほぼ同等の鎮痛効果があり,両者を併用す ると,その鎮痛効果はコデイン60mgと同等ないしそれ以上となる.投与開始量を30mg /回とし,効果をみながら30〜50%を目処に順次増量する.燐酸コデイン 30〜130mg /回をアスピリン250〜500mg/回と併用(4〜6回/日)すると,相乗効果があり, ペンタゾシン内服より強い鎮痛効果が期待できる.ほぼ130mg/回が有効限界と考え られているので,2〜3回の増量で痛みが緩和しないときには,モルヒネへの切り替 えを考慮する.

 

 主な副作用は便秘で,投与初期から緩下剤の十分量を併用する.ときに嘔気を発生 させるが,制吐薬が有効である(モルヒネの副作用対策を参照).高齢者では,急激 な増量により,痰の喀出が困難となることや眠気が発生しうるので,急激な増量を避 ける.

 

5.ブプレノルフィン坐剤(レペタン坐剤R )

 

日本で開発されたブプレノルフィン坐剤(レペタン坐剤R )はWHOがん疼痛治療法 の第2段階に属する薬である.レペタン坐剤R 0.2mgは1個中レペタンR 0.2mgを含有 する.レペタン坐剤R 0.4mgは1個中レペタンR 0.4mgを含有する.いずれの製剤も水 溶性基剤を用いている.

 通常,成人にはブプレノルフィンとして1回0.4mgを直腸内に投与する.その後必 要に応じて,8〜12時間ごとに反復投与する.なお,低用量より投与を開始すること が望ましい.

 

 レペタン坐剤R の投与では,とくに起立,歩行時に悪心・嘔吐,めまい,ふらつき などの症状が現れやすいので,投与後しばらくの間はできるだけ安静にするように注 意する.なお,レペタン坐剤R はがん疼痛のみならず,術後の疼痛にも適応が認められ ている.

 

6.強オピオイド鎮痛薬(モルヒネ)の経口投与

 

)モルヒネの一般的事項

)モルヒネ投与開始時期と注意事項

)モルヒネ投与時の薬品名の説明

)モルヒネ製剤の種類とその特徴

)経口モルヒネの投与量・投与回数

)モルヒネの副作用と対策

)モルヒネ減量の時期と方法

 

1)モルヒネの一般的事項

 

 モルヒネの薬理作用は中枢神経系の作用と末梢神経系の平滑筋への作用が中心である.中枢作用は鎮痛,気分の昴揚,催眠,鎮咳,呼吸抑制などである.末梢作用は腸 管,膀胱などの平滑筋の緊張を亢進させ,便秘や腹満,排尿困難の原因となることが ある.

 モルヒネの使用は身体的依存と耐性との発生につながるといわれているが,これは 投与を継続した結果生じる薬理的正常反応であることを銘記するべきであろう.身体 的依存とは投与を突然中断すると自律神経の嵐である退薬症状(頻脈,発汗,下痢な どの自律神経系の多彩で激烈な症状で,以前は禁断現象と呼ばれていた)が出現する ことを特徴とし,耐性とは反復投与していると効果が減少することである.また,精 神的依存性とは薬への欲求の余り,その入手に異常に執着することを特徴とした行動 様式であるが,疼痛を有する患者には依存性(乱用)の発現や耐性は皆無に等しいと 報告されている.実際に国立がんセンター中央病院では,術後の鎮痛目的に硬膜外モ ルヒネ注入による除痛法を1万人以上に施行し,患者から好評を得ているが,退院し てからモルヒネを求めてきた患者は1人もいない.

 

2)モルヒネ投与開始時期と注意事項

 

 非常に強い痛みがあるとき,あるいは適切に使用された弱オピオイド・クラスの鎮 痛薬(コデインなど)などの他の鎮痛薬の効果が薄れ,拮抗性鎮痛薬(ペンタゾシン とかブプレノルフィンなど)の注射が1〜2回行われるようになった時はモルヒネ投 与の適応である.1〜2mgのモルヒネを静注し,除痛が得られるのであれば,モルヒ ネが鎮痛効果を示す痛みと診断し,モルヒネが吸収され,しかも患者の自立性が保た れるような投与経路を考えるのもよい方法である.

 頻回に鎮痛効果と副作用の出現を観察することが,モルヒネ投与による治療の成績 を向上させる.また,投与継続中は,効果と副作用を追跡し,痛みの消長に応じた必 要な投与量の調整を行う必要がある.確実な副作用防止策,ことに便秘と嘔気の対策 が重要である.

 

3)モルヒネ投与時の薬品名の説明

 

 鎮痛に必要な十分量の鎮痛薬を服用してもらう(服薬コンプライアンスを上げる) ことから,痛み治療が始まる.鎮痛薬の定期的(時間毎の)服用と継続のためには, 鎮痛薬の臨床薬理の知識と副作用の説明・対策が必要になる.「モルヒネ=麻薬中毒 =廃人」のイメ−ジを取り除くために,折に触れて患者・家族に時間をかけて説明し ていることを表5に記載した.

 

表5 モルヒネへの誤解をとくためのモルヒネ投与時の説明の実際

 

1.正岡子規は脊椎カリエスの根症状による激痛のために明治35年3月頃より亡く なるまでの約1年6か月にわたり,同じ薬を飲んでいた.昔から使われてきた安全な 薬である.

2.昭和30年代に三環系抗欝薬が開発されるまでの間,モルヒネは抗欝薬として, 経口投与されてきて,安全性が確立されている.

 

3.現在でも,大きな手術の後や心臓発作のときの痛みにモルヒネをしばしば使って いる.硬膜外腔にモルヒネを注入する方法で,術後の痛みをほとんど感じないで済む ようになった.今までに何十万人もの患者に応用されてきたが,痛みがなくなってか らも,モルヒネをずっと欲しがるような,精神依存の患者は1人も報告されていない .

 

4.幻影肢痛に麻薬を3年間投与して安全であった.例えば,交通事故や戦争または 腫瘍の手術などで手足をなくした人の,その失った手足があたかもあるように痛むと いうことを説明し,痛みの原因をはっきりさせることが難しいこともあるが,痛みの 原因が分からなくても,安全に痛みを取り除くことができるようになったことを話す .

 

5.てんかんの患者の場合と同じく,モルヒネの服薬によってもたらされる利益が多 いか不利益が多いかを考える.「1〜2回/月の発作に対しても,抗痙攣薬を毎日服 用している.まして,四六時中痛みがあるというのに,なぜ薬を服用することに抵抗 を示すのですか?」と柔らかく話す.

 

6.手術前の患者が痛みのためにベッドに寝てばかりいると,足腰の筋肉の力が弱く なってしまい,手術後の回復も悪くなるので,モルヒネを使って痛みを止める.その ような場合でも手術の後に痛みが無くなれば,安全にモルヒネを止めるこ とができている.

 

7.モルヒネもステロイドやβブロッカ−と同じで,漸減すれば,退薬症状が出現し ないで,中止できる薬である.

 

8.モルヒネは生体内でも作られている.痛みを我慢すると,生体内で作られる痛み 止め(モルヒネ)が枯渇してしまう.外からモルヒネを補充する必要がある.

 

9.ゆとりがあるときは,「副作用を盆栽や植木の水かけに例えると,一度にたくさ んの水をかけると,溢れてしまうように,モルヒネを最初から多く与えると,副作用 が出現する」と説明しながら,少量投与から始める.

 

10.モルヒネは痛みを伝える神経や痛みを感じる中枢,つまり脳や脊髄の疼痛中枢に 作用して,痛みを少なくしたり,なくしたりする.モルヒネを使って痛みを取り除い ても,からだをつねれば,モルヒネを使う前とおなじように痛みを感じる.モルヒネ を使って痛みを止めても,熱さ,冷たさ,味覚などの他の感覚も全く変わりがない.

 

11.今までに一番多く飲んでいた人の1日の量はモルヒネの粉薬で5000mgを超え,M SコンチンR 30mg錠に換算すると,160錠以上にもなり,またアンペック20mg坐 剤R なら,250個にもなることを患者に説明すると,患者はモルヒネの増量にも 抵抗を示さない.

 

4)モルヒネ製剤の種類とその特徴

 

 現在,日本で入手できるモルヒネ製剤は塩酸モルヒネ末(原末,5g/瓶),塩酸モ ルヒネ錠(10mg/錠),硫酸モルヒネ徐放錠(MSコンチン錠R 10mg/錠,30mg/錠 ,60mg/錠),塩酸モルヒネ坐剤(アンペック坐剤R 10mg/個,20mg/個),塩酸モ ルヒネ注射液(10mg/1ml/アンプル,50mg/5ml/アンプル)である.

 塩酸モルヒネ末は,どのmg数の投与量にも簡便に用いることのできる製剤で,保 管も容易である.

 

 塩酸モルヒネ錠は,吸収も速く,保存性も良く,10mg単位の調剤に便利な剤型で あるが,端数のmg数の調剤には不向きである.服用時に,必要なら簡単に水に溶か すことができる.塩酸モルヒネ錠はモルヒネ末・水と同様5〜6回/日の服用が必要 である.

 

 硫酸モルヒネ徐放錠(MSコンチン錠R )は,服用後に消化管内でモルヒネが錠剤 外へ徐々に放出される機能を持つため,1日に必要なモルヒネ量を2分して12時間 ごと(患者によっては,8時間ごと)に与える.服用後 2.5時間ほどで最高血中濃度 に達する(塩酸モルヒネは約30分後,アンペック坐剤R は約1.5時間後).

 

 アンペック坐剤R は吸収がよいモルヒネ製剤で,しかも通常その投与回数は1日3 回(患者によっては4回/日)と少ない回数ですみ,安定した除痛状態が持続する.

 

5)経口モルヒネの投与量・投与回数

 

a.塩酸モルヒネ製剤

 

*           開始1回量:5〜10mg(痛みの強さで量を選択する)

*           投与間隔 :4時間毎(6時間毎でも除痛状態が継続する患者もいる)

*           増量の方法:最初は50%増量.モルヒネ投与量が多くなったら,25%の増量

 

 モルヒネ経口投与開始量は5〜10mg/回,4時間毎に投与する.24時間後に 効果を判定し,鎮痛効果が不十分なら(痛みが残存するならば),50%を目処に増 量し,また翌日効果を判定する.1回のモルヒネ投与量は5→10→15→20→30→ 40→60→80mg/回の順に増量していく.

 

b.硫酸モルヒネ徐放錠(MSコンチン錠R)への変更

 

 MSコンチン錠Rは上記のようにして1日の除痛に必要なモルヒネ個人量(例えば ,60mg)が定まったら,1日に必要なモルヒネ量を2分して12時間毎に与える(1 回30mgを12時間毎に服用).投与時刻は患者の生活上の便宜を配慮して,午前と午 後の同時刻(患者と相談し,例えば午前7時と午後7時)とする.

 

c.最初からMSコンチン錠R を処方する場合

 

*           開始1回量:10〜20mg

*           投与間隔 :12時間毎(服用開始時間は患者の生活サイクルに合わせる)

*           増量の仕方:10→20→30→40→60→80→100mg/回

 

 最初からMSコンチン錠を投与する場合は初回1日量を20−40mg(1回10 〜20mg,12時間ごと)とし,効果が得られなければ(痛みが残存するならば) ,60mg,80mg,100mgというように増量する.割ったり,噛み砕いたり ,水に溶かして服用すると,徐放性が失われので,患者をよく指導する.誤って,食 後3回とか4時間ごとに内服しないよう注意する.なお,奇数錠を投与するときには ,夜間の服用分を1錠多くするのが,一般的である.

 

d.投与量の限界

 

 痛みの消失(完全除痛)に必要なモルヒネ量は患者ごとに異なる.大部分の患者で は1日のモルヒネ量としては 30〜180mgである.ときには1日量として1200mg以上が 必要となるが,痛みの除去に適切な量であれば,とくに副作用が多くなる訳ではない .

 

6)モルヒネの副作用と対策

 

 副作用が出現すると,患者は目に見えない部位の臓器(たとえば肝や腎)にもモル ヒネが悪影響を与えているのでないかという不安を持つ.副作用に適切に対応すれば (あるいは予防すれば),モルヒネを中断することなく投与でき,治療成績は向上す る.

 

a.嘔気・嘔吐

 

 嘔気は,モルヒネの嘔吐中枢への刺激作用によって発生し,患者にとって非常に不 快な自覚症状である.モルヒネ服用後に嘔吐があるとモルヒネが吸収されないことに より,痛みがそのまま残り,ひいてはモルヒネに対する患者の信頼感が失われる.モ ルヒネの反復投与開始とともに制吐薬を併用する.モルヒネの催吐作用への耐性は比 較的早く発生し,モルヒネの投与開始からおよそ2週間を経ると,制吐薬を中止ある いは減量しても大多数の患者で嘔気は起こらなくなる.表6にモルヒネによる嘔気へ の対策を一覧表にした.

 

表6 モルヒネによる嘔気の管理法

 

 1.制吐薬の投与法

*           メトクロプラミド(プリンペランR):10mg/回 4〜8時間ごとの経口投与

*           プロクロルペラジン(ノバミンR):10mg/回 4〜8時間ごとの経口投与

 

 嘔吐があるときには,上記のいずれかの注射,または,

 

*           ドンペリドン坐剤(ナウゼリン坐剤R):60mg/回 1日2回

 

 を用い,嘔吐が消失してから経口投与に切りかえるとよい

 上記が十分な効果をあげないときには,制吐作用の強い次の薬を用いる.

 

*           ハロペリドール(セレネースR):0.75〜1mg/回 8〜12時間ごとの経口投与

*           チミペロン(トロペロン):0.5〜1mg/回 8〜12時間ごとの経口投与

 

b.便秘

 

 モルヒネを投与したほとんどすべての患者に便秘が発生し,便通の管理を怠ると, 頑固な便秘となり,患者にとって新たな苦悩になる.この作用は鎮痛のために必要な モルヒネ量によって発現し,耐性ができにくいため,どの経路で投与したモルヒネに よっても投与が続く限り便秘が続く.したがって,モルヒネを反復投与するときには 便秘防止策を必ず行わなければならない(表7).もっともよく用いられる緩下剤は ,蠕動刺激薬であるセンナ製剤であり,増量しながら適切量を求めて投与すれば,便 秘を解消できる.

 

表7 モルヒネによる便秘の管理法

 

 1.プルゼニド錠の投与法

*           投与開始量は1日2錠(就寝時の1回投与)

 1日2錠で下痢があれば,1日1錠に減量

*           2〜3日たっても便通がなければ,1日3錠に増量

 以後も便通が不十分なら,4→6→8→10錠/日の順に増量する

*           投与量が多いときには1日2〜3回の分服とする

 

 2.ラキソベロンの投与法

*           投与開始量は1日10滴(就寝時の1回投与),1日10滴で下痢があれば減量

*           2〜3日たっても便通がなければ,1日15滴に増量,以後も便通が不十分なら ,20→25→30→40滴の順に増量する

 

 3.便通対策の補助手段

*           浣腸(グリセリンほか)

*           坐剤(レシカルボン)

*           用手摘便

 などを遅れることなく実施する.また,食事管理を患者の好みを尊重しながら行う .

 

c.傾眠

 

 強い傾眠ないし眠気は,モルヒネの投与量が多すぎることの最初の指標となる症状 である.モルヒネの投与量を減量しなければならない.しかし,軽度の眠気は高齢者 においてはモルヒネ投与開始時によくみられ,また痛みのため不眠が続いていた患者 では除痛後,睡眠不足解消のため睡眠時間が長くなることがある.

 強い傾眠ないし眠気があるときはモルヒネの投与量を 50%減量する.軽度の場合は 減量せずにそのまま投与を続けると,数日で消失する.モルヒネの催眠作用には耐性 が早く現れるからである.痛みが残っているため,さらに増量が必要な場合には,こ の副作用症状が消失してから行う.鎮痛に必要な最低量に減量しても,まだ眠気が残 っていることがある.このときはメチルフェニデート(リタリンR )を朝,昼の2回 投与する.また,モルヒネを減量し,他の鎮痛薬(例えば、非ステロイド系抗炎症薬 )を併用したり,モルヒネの硬膜外注入(後述)の一時的な実施も考慮する.

 

 

d.錯乱・幻覚

 

 除痛に適切なモルヒネ投与を行う限り,問題となるような錯乱の発生は稀である. また,モルヒネ投与時に出現する錯乱の原因はモルヒネだけによるものでなく,脳転 移,髄膜炎,電解質異常(高Ca血症,低Na血症),肝不全,腎障害はもとより,痛み ,便秘,呼吸苦,臥床,高熱などの身体的苦痛およびそれらに伴う精神的苦痛,不安 や抑欝などの心理的要因でも出現する.錯乱の原因が何であれ,患者およびその家族 は気が狂ったと驚愕・不安・絶望に駆られるので,適切な対応を行う必要がある.

 モルヒネ投与時の副作用である眠気や意識状態低下,幻覚や不穏あるいは興奮など が出現した場合は,非ステロイド系抗炎症鎮痛薬の持続的投与を併用すると,モルヒ ネを減量させ,患者・家族および医療従事者にとっても,意識が清明な良い鎮痛状態 が得られる.

 

e.めまい( Dizziness),不安定感,浮遊感

 

 投与を開始すると数日にわたって患者が自覚することがあり,この症状は高齢者に 多い.よく説明しておき,消失するまで増量を控えて投与を続け,観察していれば消 失するので,消失してから必要な増量を行う.しかし,患者にとっては苦痛であり, ふらつき感が継続すると,モルヒネに対する信頼度も失われるので,適切な対応を行 う必要がある.

 

f.呼吸抑制

 

 「モルヒネの急性中毒時の死因は呼吸麻痺と循環不全である」と薬理学の成書に書 かれてあるが,鎮痛のために適切に用いたモルヒネが原因となって呼吸抑制が発生す ることは稀である.しかし,万一,呼吸抑制が発生したら,生命を脅かすことがある ことをよく認識し,機械的,図式的に,あるいは電話連絡のみで,モルヒネ投与およ び投与後の観察が行われると,このような不幸なことが起こりうる.モルヒネのワン ショット静脈内投与は危険であるから,行なうときは少量ずつ投与し,ベッドサイド で意識状態や呼吸数,呼吸の深さ,舌根沈下の有無などについて十分な観察を行う. 呼吸抑制を生じたら,次の処置をとる(表8).

 

表8 モルヒネによる呼吸抑制への対応

 

1.舌根が沈下していれば,まず気道の確保を行う.

2.動脈血ガス分析(パルスメ−タでもよい)を行い,PO2が低下していれば,酸素 吸入を行う.

3.動脈血ガス分析を行い,PCO2が上昇していれば,麻薬拮抗薬ナロキソンの投与を 行う.

4.除痛が完全に得られているときは,モルヒネを減量する.

5.除痛が得られていなければ,非ステロイド系抗炎症薬や鎮痛補助薬を併用し,モ ルヒネを減量する.また,硬膜外モルヒネあるいは硬膜外局所麻酔薬の注入に変更す る.

 

g.排尿障害

 

 排尿障害の頻度は少ないが,排尿遅延をみることが多い.効果の確実な対応法がな いが,コリン作動薬(ベサコリンなど)の投与を行う.導尿が必要なこともある.

 

7)モルヒネ減量の時期と方法

 

 化学療法や放射線治療は痛みにも著効を示すことがある.モルヒネ投与で副作用が なく,鎮痛状態がえられていた患者が,化学療法後しばらくしてから嘔気や眠気を訴 える事がある.痛みの原因病変が完全に消失しなくとも,問診すると,痛みが全くな い.このような症例では投与モルヒネを1/2〜2/3量に減量すると,痛みもなく,副 作用が消失する.表9に示すように,一般的にはモルヒネ投与量を2〜3日またはそ れ以上かけて少しずつ減量すれば,退薬症状の発現を回避できる(投与量にもよるが ,一般的にはモルヒネ中止に至るまでに要する日数は2〜3週間を要する).退薬症 状は成書に書かれている幻覚や錯乱より先に頻脈,発汗などの自律神経の症状,疝痛 や下痢などが出現することが多い.注意深い観察で退薬症状を防止できる.退薬症状 が疑われたら,少量のモルヒネを経静脈的に投与する.α,β-blockerを併用するの も退薬症状の軽減に有用である.

 

表9 具体的なモルヒネの漸減法

 

A.塩酸モルヒネ製剤1回量30mgを4時間ごとの投与の場合

1.まず20mgの4時間ごとの投与を2〜3日続ける→臨床的に問題がなければ,

2.2〜3日ごとに15mg,ついで10mgの4時間ごとの投与に

3.さらに,5mgの4時間ごとの投与とする.この時までは投与間隔の時間を長くし ない.

ここで問題がなければ,投与間隔を6〜8時間ごととし,ついで中止に至る.

 

B.徐放錠(MSコンチン錠R )1回量60mgを12時間ごとの投与の場合

1.40mgの12時間ごと投与(2〜3日続ける)→臨床的に問題がなければ,

2.30mgの12時間ごと投与(2〜3日続ける)→同上

3.20mgの12時間ごと投与(2〜3日続ける)→同上

4.10mgの12時間ごとの投与(2〜3日続ける)→同上

5.夜のみ10mg1錠を投与(2〜3日続ける)後に中止

 

7.投与経路による体内動態と痛みの臨床

 

 鎮痛薬を内服すると,すぐに薬が吸収されるのではなく,また剤型によってもモル ヒネの吸収速度や量が異なる.従来からの塩酸モルヒネ水溶液,MSコンチン錠R お よびアンペック坐剤R の薬物動態(ファ−マコキネティクス)を表10に示した.

 

表10 モルヒネ製剤の薬物動態

(ファ−マコキネティクス)

 

               τラグタイム   Tmax  Cmax  AUC

モルヒネ水10mg     0.12      0.5      19.5     54*1 Cmax(最高血漿中濃度:ng/ml)

MSコンチン錠20mg    1.2       3.0      18.7     125*2 Tmax(Cmaxまでの時間:hr)

MSコンチン錠30mg    1.46      2.7      29.9    166*2 ラグタイム(τ:吸収開始までの時間)

アンペック10mg     0.36      1.5      25.8    121*3 AUC(血漿中濃度時間曲線下面積)

アンペック20mg      0.34      1.3      35.4    170*3

 

  *1:AUC0-4、*2:AUC0-12、*3:AUC0-8:ng・hr/ml

 

 

 吸収が一番早い製剤(ラグタイムが短い)は塩酸モルヒネ水溶液や末,錠剤である .MSコンチン錠R を頓用で服用させても,1時間は吸収されない.つまり,モルヒ ネ服用中の患者の痛みが増強したときのレスキュ−ドウズ(rescure dose :臨時追加 投与)で使用するモルヒネ製剤には塩酸モルヒネ製剤を選択するのが合理的である. また,痛みの程度を観察し,除痛効果がTmax(最高血漿濃度に達するまでの時間)前 後で得られれば,投与したモルヒネ製剤に鎮痛効果があることを示している.痛みが 消失したが,眠気などの中枢性副作用の出現がTmax前後であれば,1日量を変えずに ,投与回数を増やすのがよい.

 塩酸モルヒネ坐剤であるアンペック坐剤R のAUC,すなわち生物学的利用能は他 のモルヒネ製剤に比べて高いことが知られているので,例えば,塩酸モルヒネ水溶液 60mg/日を服用し,痛みがコントロ−ルされている患者の除痛法をアンペック坐剤R に変更する場合は,1日にアンペック10mg坐剤R 3個を投与すれば,良いこと(同じ 除痛状態)になる.もし,アンペック10mg坐剤R を投与して,2時間後(Tmaxが過ぎ ている)に除痛が得られなければ,すぐにアンペック20mg坐剤R を追加投与して早期 除痛に努力する.また,アンペック20mgR 坐剤を1日に3回使用することは薬物動態 から見れば,モルヒネ製剤100〜120mgの経口投与と同じことである.

 

8.病態別モルヒネ投与法

 

 鎮痛薬を投与する時は,食事ができているかどうか,中心静脈栄養が施行されてい るか否か,痛みの強さなどで鎮痛薬の投与経路が異なる.例えば,食欲の低下してい る患者に鎮痛薬を経口投与しても,モルヒネの吸収は悪く,除痛状態が得られないこ とも多いので,投与経路を変更するべきである.また,強い痛みにはモルヒネを経静 脈的に投与し,早期に除痛すべきである.

 

1)食事が十分にできている場合

 

 患者の自立性や,患者の日々の生活の質的な向上からすれば,経口投与がよい.

 

2)時に点滴を必要とする(経口可能であるが,制限がある)場合

 

 経口摂取がやっとの状態の患者でもモルヒネ内服が鎮痛効果を示していれば,経口 投与でよい.しかし,定期的な鎮痛薬服用が困難である場合は,モルヒネ坐剤を定時 的に用いる.また,坐剤挿入が困難である場合は,モルヒネ持続皮下注を用いる.持 続皮下注はmicro infusion pump を用いてモルヒネを皮下投与する方法である.食事 の量も時間も不安定である患者は,定時的にモルヒネを内服しても,鎮痛薬の血中濃 度を一定に保つことが困難なので,モルヒネ持続皮下注の良き適応である.

 

3)経静脈栄養を受けている患者(注射)の場合

 

 中心静脈栄養(TPN)を受けている患者,または持続的に点滴投与を受けている 患者の痛み除去にはモルヒネの持続点滴投与が適している.モルヒネの持続点滴法は モルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく,血中濃度を一定に保ち,安定し た除痛状態を継続させること,および疼痛の増強に対して急速に滴下し(臨時追加投 与),除痛をはかることができることなどが利点である.除痛に必要な1日の静注モ ルヒネ量が定まり,除痛状態が継続しているときは,IVHの袋の中に1日量のモル ヒネを混入し,24時間で点滴投与する.ポンプやIVHの袋の中にモルヒネを入れて 患者が在宅で用いることには法律上の問題はない.

 

9.モルヒネの非経口投与

 

)モルヒネ坐剤

)モルヒネの持続皮下注入法

)モルヒネの持続点滴注射

)硬膜外モルヒネ注入法

 

1)モルヒネ坐剤(アンペック坐剤R )

 

a.アンペック坐剤R の適応

 

 強度のがんの痛みがアンペック坐剤R の投与の適応である.具体的には,アンペック 坐剤R は薬の内服が可能であるが,食事の量や時間が不定期(定期的な鎮痛薬服用が 困難)で,モルヒネを必要とする患者に投与される.さらに,がん自体の病態,抗がん剤 ・放射線治療やモルヒネの副作用である嘔気・嘔吐があるときや,突然の激痛で経口 投与が不可能となるときもアンペック坐剤R の適応となろう.

 

b.アンペック坐剤R の投与法の実際

 

 経口モルヒネ投与よりアンペック坐剤R の方がモルヒネの吸収が良好であるので, モルヒネ製剤としてはじめて本剤を投与する場合は,1回10mgを1日3回より開始す る.もし,これで満足するべき除痛状態が得られなければ,至適投与量まで増量する 方法が薬物動態からみて安全と考えられている.患者によっては,6時間ごとにアン ペック坐剤R を投与する必要がある.

 具体的には,アンペック坐剤R の投与開始量は1回,10mgを 8時間ごとに直腸内に 投与する.夜間に痛みがなく熟睡できることを第1の目標に,ついで安静時の痛みを ,最終的には体動時の痛みを除去することを目指す.24時間後に効果を判定し,不十 分なら,夜間の投与はアンペック20mg坐剤R を用いる.翌日効果と副作用を判定し, 鎮痛効果が不十分なら,アンペック20mg坐剤R 1個を 8時間ごと投与に変更する.

 

c.アンペック坐剤R 使用上の留意点

 

 アンペック坐剤R 使用上の注意事項としては,

 

*           直腸内投与による外用にのみ使用すること,

*           できるだけ排便後に投与すること,

*           インテバン坐剤R (水溶性基剤)と併用すると,血漿中モルヒネ濃度が低下する,

*           ボルタレン坐剤R (油性基剤)と併用すると,血漿中モルヒネ濃度が上昇する,

*           モルヒネの吸収が良好であるので,投与初期は呼吸抑制の発現に注意する,

*           下血があると,直腸粘膜内がコ−ティングされた状態になり,モルヒネの吸収が 悪くなる

 などである.

 

d.アンペック坐剤R への切り替え法

 

1.モルヒネの経口剤からアンペック坐剤R への切り替え法

 

A.モルヒネ末,錠,水剤の場合

 

 アンペック坐剤R のbioavailabilityはモルヒネ経口剤よりすぐれているため に,少ないモルヒネ投与量で除痛されることが予測されるので,経口投与量の1/2 での開始を目安とするべきである.具体的には,モルヒネ経口製剤の1日量が60mgで コントロ−ルされている患者の疼痛コントロ−ルをアンペック坐剤R で変更する場合 は,1日量が30mgの注腸モルヒネ量でよいこととなる.すなわち,アンペック10mg坐剤 R を8時間毎に1個挿入することから始めて,鎮痛効果不十分ならば順次アンペック 坐剤を増量し,疼痛の消失に必要な至適投与量まで増量する.

 

B.MSコンチン錠R の場合

 

 MSコンチン錠R と同量のアンペック坐剤R を投与すると,呼吸抑制や眠気な どの副作用が出現することがある.したがって,MSコンチン錠R の1日投与量の1 /2をアンペック坐剤R の1日投与量に換算して,アンペック坐剤R を投与する.M Sコンチン錠R の1日投与量が60mgの場合はモルヒネ製剤として,はじめてアンペッ ク坐剤R を投与する場合と同じく,1回10mgより開始し,安定した除痛効果が認めら れる至適投与量まで順次増量する方法が安全である.なお,アンペック坐剤R から, 経口モルヒネに変更する場合も上述の手順を逆に行なうとよい.

 

2.モルヒネ注射からアンペック坐剤R への切り替え法

 

 モルヒネの持続皮下注入や持続点滴注入をアンペック坐剤R に切り替えるときには ,まず,注射量の半量をアンペック坐剤R に変更し(アンペック坐剤R の投与量は切 り替えるべき注射全量の半量の2〜3倍のmgを目安とする),他の半量をそのまま注 射量とする.次いで,全量をアンペック坐剤R に変更する.

 

 また,モルヒネ投与初期の副作用を少なくして,除痛効果をあげるためには,痛み の治療をモルヒネ持続注射で開始するのもよい方法の1つである.除痛状態が得られ たら,上記の手順をふんで,アンペック坐剤R ,もしくはMSコンチン錠R に変更す る.

 

e.アンペック坐剤R の減量の仕方

 

 モルヒネは経口投与だけでなく,坐剤投与でも急に長期投与を中止すると,退薬症 状が出現するので,休薬するときには漸減投与が必要である(表11).

 

表11 モルヒネ坐剤(アンペック坐剤R )の具体的な減量法

 

モルヒネ坐剤(アンペック坐剤R )1回量20mgを8時間ごとの投与の場合

 

1.10mg坐剤(朝、午後)と20mg坐剤(夜)の投与(2〜3日続ける)                           →臨床的に問題がなければ 、

2.10mg坐剤の8時間ごと投与(2〜3日続ける)→同上

3.10mgの12時間ごとの投与(2〜3日続ける)→同上

4.夜のみ10mg坐剤1個を投与(2〜3日続ける)後に中止

 

2)モルヒネの持続皮下注入法

 

  持続皮下注はmicro infusion pump を用いてモルヒネを皮下投与する方法である. イギリスのホスピスではモルヒネの持続皮下注が普及している.定期的に食事が取れ ない患者や間歇的に点滴を受けている患者には便利な方法である.

 

a.モルヒネの持続皮下注入法の適応

 

 食事の量も時間も不定である患者は鎮痛薬を内服しても,鎮痛薬の吸収も不安定で ,血漿濃度を一定に保つことが困難なので,モルヒネ坐剤かモルヒネ持続皮下注を用 いる.坐剤の挿入を患者が希望しなかったり,坐剤の挿入のための体位を取るのが困 難である場合には,モルヒネ持続皮下注の良き適応である.

 利点はモルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく,血中濃度を一定に保つ ことができること,急性疼痛あるいは慢性疼痛が急に悪化した患者に対して,急速に モルヒネを皮下注することで,除痛を計ることができること,在宅での生活が可能な こと,モルヒネ点滴投与法より入浴が簡単にできることなどである.

 

 患者を教育することで,モルヒネの持続皮下注は在宅でも行うことができる.例え ば,注入器にセットした翼状針を一時的に抜去すれば,入浴も簡単にでき,風呂から あがったら,また新しい翼状針を皮下に刺入し,ポンプのスイッチを入れる.携帯用 のポンプも数多く開発されているし,取扱いの簡単な使い捨て注入装置も開発されて いる.

 

b.モルヒネの持続皮下注入法の実際

 

 1日に必要なモルヒネ注射量(表12)を求め,それの6分の1の量をまず皮下注 射して,モルヒネの血漿中濃度を上げておく.モルヒネの適切量(1〜3日分)を注 射器に入れ,細め(27G)の翼状針(延長チューブを介在させてよい)をつけ,先 端まで薬液を満たし,注射器を持続皮下注入器にセットし,スイッチを入れ,翼状針 を前胸部皮下など体動の影響のない部位の皮下に刺入し,絆創膏で固定する.持続注 入器を布製のカバンや袋に入れたまま,患者は自由に動くことができる.薬液は終了 時間に補充するが,翼状針は2〜3週間交換しないですむ.モルヒネの持続皮下注を 行った結果,除痛されて,食欲が回復した場合も経口投与に変更を考慮すべきである .

 

表12 1日に必要なモルヒネ量の計算

 

1.経口モルヒネ投与量の約1/3(1/6〜1/2)が注射モルヒネ投与量と計算 する.

2.濃度はポンプの性能に合わせて設定するが,時間あたり1mlを超える量を皮下注 すると,吸収が不安定になることがある.

 

 最初からモルヒネ持続皮下注を行う場合

 1日のモルヒネ20mgを皮下注するように濃度を決め,注入を開始する.

 

 モルヒネ内服から皮下注への変更

 例えば,モルヒネ 180mg/日内服患者の場合は1日のモルヒネ60mg(30〜90mg)を 皮下注するように濃度を定めて,注入を開始する.

 

 

 何らかの原因で持続点滴もしくは中心静脈栄養が施行された場合は,モルヒネの持 続皮下注射から,投与量を変えずに持続点滴注射に変更する方がよい.

 

3)モルヒネの持続点滴注射

 

a.適応と利点

 

 水分・栄養補給の目的で血管が確保されている患者で,モルヒネが効果ある病態( 1〜2mgのモルヒネを静注し,除痛が得られる)がモルヒネの持続点滴投与の適応に なる.また,モルヒネ内服患者に手術や化学療法を施行する際も,モルヒネを持続的 に点滴で投与することはより良き除痛状態の継続につながる.

 この方法の利点はモルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく,血漿中濃度 を一定に保つことができること,急性疼痛あるいは慢性疼痛が急に悪化した患者に対 して,急速に滴下し,除痛をはかることができることなどである.消化器症状の軽減 は単に痛みが除去されるだけでなく,モルヒネ点滴投与の結果,血漿中モルヒネ濃度 と腸管粘膜のモルヒネ濃度が同じくなるので,結果的には経口投与時より腸管粘膜の モルヒネ濃度が低く,腸管の蠕動麻痺が軽度となるためと思われる.

 

b.方法

 

 モルヒネ持続点滴の開始量は表13に示したように,例えば,モルヒネ60mg/日を 経口投与中の患者を持続点滴注射に変更するときは,「生理食塩液 100mlにモルヒネ 20mgを入れたもの」を最初 4ml早送りし,以後4ml/hrで輸液ポンプを用いてIVHの ル−トから持続側管注とする.疼痛発現時に 4mlの早送りを施行し,12〜24時間後に 効果を判定し,除痛に必要なモルヒネ量を決める.

 

表13 モルヒネ持続点滴注射の準備と開始

 

1.痛みが軽い場合

 IVHの袋にモルヒネ10mgを混入し,24時間で持続投与する.

2.痛みが強い場合

 「生理食塩液 100ml注1)にモルヒネXmg注2)を入れたもの」を最初 4ml早送りし,以後 4ml/hrで輸液ポンプを用いてIVHのル−トから持続側管注とする.

3.疼痛増強したとき

 発現時に 4〜8ml(1〜2時間分)の早送りをし,痛みが取れるならば,モルヒネ が効く状態であると判定し,痛みが消失するまでモルヒネを増量する.静注の最大効 果発現時間はモルヒネで15〜30分の範囲であるから,その間は早送りをしないで様子 を観察する.

4.モルヒネ点滴投与量の決定

 例えば,除痛のために12時間で12回の早送りを必要としたら,注入速度を4ml/hr から8ml/hr(2倍量のモルヒネが入る)に変更し,次回の交換のときに生理食塩液 1 00mlにモルヒネを40mgを混入し,再び4ml/hrの速度で持続側管注をする.

 このようにして,除痛に必要な1日の静注モルヒネ量が定まり,除痛状態が継続し ているときは,IVHの袋に1日量のモルヒネを混入し,24時間で点滴静注する.

 

1)

溶媒は患者の病態に応じて、5%グルコ−ス液か、生理食塩液を使用

用量は水分制限がない場合は250ml(10ml/hrの速度で、調節性が良い)

水分制限がある場合には50〜100ml/日(2〜4ml/hrの速度)

 

2)

1.モルヒネの使用がない患者 モルヒネ10〜20mgを混入

2.モルヒネ内服から点滴静注に変更する場合

 経口摂取が良好=1日内服量の1/3〜1/2の量のモルヒネを混入

 経口摂取が不良=1日内服量の1/6〜1/10の量のモルヒネを混入

 

c.モルヒネ経口と持続点滴静注との匹敵量

 

 モルヒネ60mg/日を内服している患者の血漿中モルヒネ濃度の推移は10ngから20ng /mlである.一方,モルヒネ10mg/日を持続点滴静注を行なっている患者の血漿中モ ルヒネ濃度は約10ng/mlである.

 例えばモルヒネ 180mg/日内服中の患者(30〜60ng/mlを推移する)

1.痛みが全くなければ,1/6すなわち30mg/日のモルヒネ量の注射(血漿中モルヒネ濃度は約30ng/ml)

2.ときどき痛い時間があれば,注射変更量は1/3すなわち60mgのモルヒネ量(血漿中モルヒネ濃度は約60ng/ml)

3.いつも痛いのであれば,1/2すなわち90mg/日のモルヒネ量で持続点滴静注への変更

 

分布容積が変化する病態が発生したと推測される時には,最初から1/2量のモルヒネで持続点滴静注を開始し,臨時追加投与の回数で調節するとよい.

 

 モルヒネ点滴から経口に変更する時は,

 

1.まずモルヒネ以外の薬を経口投与に切りかえる.

2.モルヒネ注射量の半量を相当量の経口投与に変更し(経口投与量は切り替えるべ き注射 量の半量の2−3倍のmgとする),半量をそのまま注射とする.

3.次いで,全量を経口投与に変更する.

 

d.モルヒネの注射投与の減量の仕方

 

 モルヒネ持続点滴静注を行うのは,末期状態の患者だけではない.原因に対する治 療が奏功すると,注意深い観察と表14に示す手順でモルヒネを止めることができる .

 

表14 モルヒネ注射の具体的な減量法

 

 モルヒネ60mg/日を持続皮下注射または点滴投与の場合,

 

1.40mg/日に減量投与(2〜3日続ける)→臨床的に問題がなければ,

2.30mg/日に減量投与(2〜3日続ける)→同上

3.20mg/日に減量投与(2〜3日続ける)→同上

4.10mg/日に減量投与(2〜3日続ける)→同上

5.5mg/日に減量投与(2〜3日続ける)後に中止

 

4)硬膜外モルヒネ注入法

 

 硬膜外腔モルヒネ注入による除痛法の特徴は,意識や運動機能に障害をもたらさず ,長時間にわたる除痛効果が得られることで,がん疼痛治療における適応は以下のよう に考える.

 

緊急避難

 

 腫瘍の急激な増大や病態の変化などで突然痛みが増強した場合は,放射線治療の除 痛効果が発現されるまで,硬膜外モルヒネ注入で痛みを取り除く必要がある.

 

モルヒネ投与で強度な副作用の出現時

 

 モルヒネ投与時に見られる眠気,錯乱などの中枢系の副作用のみならず,嘔気, 食欲低下などの消化器系の副作用の発現も硬膜外モルヒネ注入法の方がモルヒネの 経口・注腸や持続点滴投与に比べてモルヒネ量が少ない.

 経口モルヒネ投与から硬膜外モルヒネ注入に変更するときは約 1/15(1/10〜1/ 20)量,例えば,モルヒネ経口60mg/日投与で鎮痛が得られた患者の硬膜外注入の モルヒネ量は 2mgx2/日で開始する.注射からの匹適量は 1/3〜1/5量である.

 

 

多種の薬剤投与で疼痛管理が混乱した時

 

 短期間に種々の薬剤が大量に投与され,意識レベルが低下し,混乱して痛みの程度 が本人にも判らなくなることがある.硬膜外モルヒネ投与により確実に除痛すれば, 他の投与薬剤を減量することができ,意識状態がはっきりし,痛みの程度を正確に評 価できる.その後,経口投与などを徐々に再開すると,予想よりはるかに少ない鎮痛 薬の量で鎮痛効果が得られる.

 

予測生存期間が短いことが予測される場合

 

 予測生存期間が短い場合には,無痛状態を早く得る必要があり,硬膜外モルヒネ 注入法を最初から選択した方がよいこともある.

 

褥瘡の痛み

 

 硬膜外に[モルヒネ+1%キシロカイン]を注入すると,除痛され,仰臥位で睡眠 をとることができ,本人はもとより,付き添う家族の心をも和ませる.

 

10.モルヒネ治療上の考慮すべき問題点

1)非ステロイド系抗炎症薬の併用

 

 がん疼痛治療において,眠らせたままの状態ではなく,患者が意識が明瞭で,しかも 痛みのない状態が継続するような痛み治療を目指す.例えば,モルヒネ50mg持続点滴 投与しても,痛みが除去されないし,60mgに増量すると,痛みは取れるが,眠気を訴 える患者には,モルヒネ50mgに非ステロイド抗炎症鎮痛薬(NSAIDs)を併用すると, 意識清明な除痛状態が得られる.WHOの3段階除痛法ではモルヒネ±非オピオイド (NSAIDs)になっているが,必ずNSAIDsを併用することがポイントである.

 

2)モルヒネが鎮痛効果あるか否かの判定

 

 ある薬物が鎮痛効果を示す痛みか否か分からないときには,その薬物を静注し,患 者の痛みの消長を調べるドラッグ・チャレンジ・テストが有効になってくる.例えば ,1mgのモルヒネを静注した結果,1時間の除痛が得られたとすれば,単純計算で2 4時間の除痛には24mgのモルヒネ注射量になり,経口剤に換算すると約60mg/日のモ ルヒネ量になる.

 

3)モルヒネの増量

 

 モルヒネ治療中の患者の疼痛増強時にモルヒネを臨時追加投与した場合に意識清明 で痛みの軽減が得られるならば,増量の上限はない.モルヒネの臨時追加投与の結果 ,患者が眠ってしまったために痛みを訴えない状態ならば,モルヒネの増量でなく他 の鎮痛法を選択するべきである. 

 

4)退薬症状(禁断症状)の防止

 

 モルヒネ長期内服患者が急にモルヒネ内服を中断・中止すると,たとえ30mg/日の モルヒネ内服量であっても,退薬症状が発現する.弱い退薬症状(頻脈,発汗,下痢 など)であっても,患者にとっては苦痛であるので,休薬するときには漸減投与が必 要である.

 

5)抗がん療法とモルヒネ

 

 モルヒネ内服中の患者に化学療法を行う時は,あらかじめ経口投与から直腸内ある いは点滴投与に変更すると,患者はより苦痛が少ない状態で,抗がん剤の治療が受けら れる.

 モルヒネ内服中の患者が手術を受ける時には,内服量の1/3のモルヒネ量を点滴で 投与すると,退薬症状は出現しないし,麻酔の覚醒も遅延しない.

 

6)病態とモルヒネ血漿中濃度

 

 モルヒネを持続点滴静注しているがん患者の血漿中モルヒネ濃度は,必ずしも投与量 に比例した血漿中濃度を示す訳ではない.この原因は代謝速度や排泄の早い患者の存 在を疑わせるだけでなく,分布容積の問題もある.胸水あるいは腹水中のモルヒネ濃 度は血漿中モルヒネ濃度とほぼ同じであるので,急激な浮腫,胸水や腹水の発症(分 布容積の増加)は血漿中モルヒネ濃度を相対的に低下させ,患者の痛みを出現させる .このような病態での痛みを精神的なものに起因させることを医療者は避けるべきで ある.臨床的な観察から,除痛に必要,十分な量のモルヒネを投与することが大切で ある.

 

7)強度の痛みや突然の激痛の出現時

 

 腫瘍の急激な増大や病態の変化などで突然痛みが増強した場合は,硬膜外モルヒネ 注入で痛みを取り除く必要がある.患者の自立性が高い鎮痛法は経口か直腸投与であるが,意識が清明で強力な鎮痛効果を有する硬膜外モルヒネ注入法はときに患者のQ OLを向上させる.経口モルヒネ投与から硬膜外モルヒネ注入に変更するときの鎮痛 の匹敵モルヒネ量は約1/15(1/10〜1/20)と考えてよい.

 

8)外来患者へのモルヒネ処方

 

 外来通院中の患者の除痛法は,

 

1.安全性を第一に,副作用対策を含めた服薬法を患者自身に分かりやすく説明する こと,

2.痛みや行動様式のチャ−トを作成させ,持参させること,

3.開始した治療が効果が少ない場合を想定し,次なる鎮痛対策を立てておくこと, さらにいつでも電話連絡が出来るように緊急連絡方法を教えることなどが大切である.

 

9)モルヒネ治療のチェックポイント

 

 モルヒネが鎮痛効果を示さない病態と判定する前に,表15に示す項目をチェック する必要がある.

 

表15 モルヒネが効果不十分または無効か否かの鑑別診断

 

1.情報提供は十分か,信頼関係があるか

2.副作用対策は十分か

3.モルヒネの投与量が少なくないか

4.NSAIDsを併用しているか

5.モルヒネが十分に吸収されているか(投与経路の選択)

6.痛みと治療効果の評価は正確か(眠ったきりになっていないか)

7.ファ−マコキネティクス,ファ−マコダイナミックスにもとづいたモルヒネ治療 を行っているか

8.血漿中モルヒネ濃度が低下する病態がないか

 

 以上を検討した結果,モルヒネが効きにくい痛みと判定したら,表16に示すよう に鎮痛補助薬を併用するか,麻酔薬を使用する.

 

表16 モルヒネが効果不十分または無効ながん患者の痛みとその治療

 

*           緊張性頭痛・・・・・・・・・筋弛緩薬(ジアゼパム)、NSAIDs

*          ヘルペス後神経痛・・・・・・三環系抗欝薬、硬膜外局麻

*           痛覚求心路遮断による痛み・・三環系抗欝薬、抗痙攣薬、ケタミン

*           胃膨満痛・・・・・・・・・・水酸化アルミゲル、メトクロプラミド、ケタミン

*           筋の攣縮による痛み・・・・・筋弛緩薬(ジアゼパム)

*           交感神経が関与した痛み・・・交感神経ブロック

*           神経圧迫・・・・・・・・・・ステロイド、抗痙攣薬

 

11.鎮痛補助薬

 

1)鎮痛補助薬使用の目的と原則

 

 がん疼痛治療での鎮痛補助薬は特定の痛みの治療か,がん患者によく生じる痛み以外の 症状の緩和を目的に投与される.以下,がん疼痛治療に重要と思われる薬剤の順に記載 した.

 

2)鎮痛補助薬の種類とその使用法

 

a.抗痙攣薬

 

 がんの原発部位や転移部位によっては,モルヒネを主軸とするWHOがん疼痛治療法を 応用しても,痛みを緩和させることが非常に困難である.神経や神経叢への浸潤・転 移(とくに横断麻痺の完成の直前)による痛みは,NSAIDs+モルヒネの治療効果が少 ない.

 フェニトインやカルバマゼピンは神経の異常発射を抑制するので,痛覚求心路遮断 による刺すような痛みやがん,あるいはがんの治療に起因する神経障害として引き起こさ れたチック様の痛みに有効である.カルバマゼピン,フェニトインが第一選択の薬剤 である.

 

 カルバマゼピン(テグレトール R)は1日100mg〜200mgから開始し,至適効果が現 れるまで(最高 600mg/日),2〜3日毎に 100mgの割合で増量する.具体的には, 睡眠補助をかねて,就寝前に1錠( 200mg)を内服させる.その結果,日中に眠気が 出現しなければ,あるいは出現した眠気が軽減したら,朝半錠(100mg),昼半錠, 夜1錠(200mg)を内服させる.次第に増量し,1日量3錠をおおよそ8時間毎に内 服させる.

 

 フェニトインは1日 100mgから開始,25〜50mgずつゆっくり増量し,1日250〜 30 0mg以下とする.副作用はカルバマゼピンの副作用と同様である.

 

b.ステロイド剤

 

 ステロイド剤はがん性の脊髄圧迫,パンコスト肺がん患者の上腕神経叢あるいは腰仙骨 神経叢のがん病巣が原因となる痛みの管理に有用である.さらに,末期状態のがん患者 において多幸感と食欲の増進をもたらす.ステロイド投与による興奮や不眠に対して は,就眠前にジアゼパムを投与する.ステロイドの急激な中止は離脱症候が出現する だけでなく,痛みを一層悪化させることがあるので,漸減が望ましい.

 多くの症例ではデキサメサゾンを1日2〜4mg,またはプレドニソロン1日量15〜30 mgを投与する.脊髄圧迫症例では,デキサメサゾン1日16〜30mg(96mg迄の増量可, その等効果用量の他のステロイド)を投与する.神経圧迫の痛みにはステロイドを1 週間投与し,痛みが軽減したら,その後に漸減・中止しても,症状の緩和が継続する との報告もある.

 

c.睡眠薬

 

 鎮静・催眠剤(例えばバルビツレイト系薬剤)は本質的に鎮痛作用がないので,疼 痛管理に用いるべきでないと云われているが,夜間の十分な睡眠は日中の眠気や疲労 感を取り去るので,積極的に用いるべきである.バルビツレイト系の睡眠剤と異なり ,ベンゾジアゼピン系の最近の睡眠薬は呼吸抑制作用がないので,モルヒネ投与中の 患者にも安全に使用できる.しかし,半減期の長い睡眠薬は翌日まで眠気が持ち越さ れるので,短時間性の睡眠剤を選択するのが適当である.

 

d.リドカイン

 

 がん患者のしびれに応用して,時に効果がある症例に遭遇する.がん患者の神経圧 迫に起因する痺れ痛みにも奏効を示すことがあるので,前述の抗痙攣薬(副作用の眠 気が多い)投与の前にリドカインを選択する医師も多い.

 具体的には,1%のリドカインを50〜100mgを静注して,痺れや痛みの症状が寛解も しくは軽減するようならば,メキシチ−ルの内服に変更する.

 その他,抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬剤),向精神薬(神経遮断剤 neulolept ics ),抗欝薬,その他の鎮痛補助薬(カフェイン,デキストロアンフェタミン)な どがあるが,参考図書を参照して下さい.

 

12.難治性がん疼痛治療

 

 がんの原発部位や転移部位によっては,痛みを緩和させることが非常に困難である. さらに,がんは進行すると全身疾患の性格を強め,モルヒネの経口投与や持続注射でも ,痛みが制御されなかったり,副作用対策が奏効しないために,がん患者の疼痛管理 に困難をきたすことがある.

 ほとんどの痛みはWHOがん疼痛治療法を応用すれば軽減するが,神経や神経叢への 浸潤・転移(とくに横断麻痺の直前),消化管の通過障害による痛み,褥瘡の痛みは ,NSAIDs+モルヒネの治療効果が少ない.

 

 

1)ケタミン持続点滴法による鎮痛法

 

 ケタミンの鎮痛作用は強力で,5mg/hrの速さでの点滴静注でも十分な鎮痛が得られ る.したがって,前述の難治性がん疼痛に1日量125〜250mgのケタミンを投与すると, 傾眠や夢・幻覚などの副作用が出現せずに,より良き除痛状態が得られる.ケタミ ンに精神症状の予防を目的に,ドロペリドール10mgないし20mgを混ぜるのもよい方法 である.

 

2)硬膜外局麻

 

 褥瘡の痛みのために,日夜ベットに臥床出来ずに,ベットの柵を利用し,両腕で体 重の負荷を軽減させている患者に硬膜外チュ−ビングを行い,硬膜外にキシロカイン 注入すると,患者は仰臥位で暮らすことが可能となる.さらにケタミン 250mg/日の 持続点滴を併用した結果,点滴モルヒネを減量でき,幻覚も消失し,車椅子で病棟内 を散歩出来るようになる.

 

3)鍼灸治療

 

 がん患者の疼痛が改善しても,改善されない随伴症状に呼吸苦,むくみ,褥瘡,管 による拘束感,動けない,倦怠感,食べられないことなどがあり,これらの症状は鎮 痛補助薬でも軽減しない.鍼灸治療は副作用がなく,マッサ−ジが効果を示す痛み, ピリピリした痛み,しびれ,浮腫,こり,腹部膨満感・便秘,呼吸苦などに治療効果 が認められるので,利用する方がよい.

 以上述べた難治性がん疼痛の治療法については,

 

1.モルヒネのTDMの必要性,簡易モルヒネ濃度の測定の機器の開発,

2.副作用対策の簡易化,

3.ペインセンタ−の解説と病診連携,

4.在宅医療への器具の開発

 などを含めてこれからの研究課題である.

 

おわりに

 

 がん疼痛の治療は患者の病態を悪化させることなく,痛みを最大限に取り除き,しか も,副作用を最小限にすることである.がん患者の痛みは治療すべき症状であり,治 療しうる症状である.痛みが除去されると,たとえ末期であっても,患者の表情は明 るくなり,その人らしい日々の生活が送れることにつながり,家族に残される思い出 の内容もよいものに変る.

 

まとめ

 

がんの疼痛を緩和するためにモルヒネを使用するときには以下の点に配慮する.

 

1.情報提供を十分に行う,信頼関係を確立し,正しい薬を選択する

2.痛みが出てからの頓用指示をやめ,痛みが出ないように投与する

3.痛みが緩和されるのに十分なモルヒネを投与する

4.副作用対策を十分に行う,中枢神経系の副作用の出現は過量であることが多い

5.禁忌でない限り,非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)を併用する

6.モルヒネが十分に吸収されるような投与経路を選択する

7.痛みの評価や治療効果の判定を正確に行う

8.ファ−マコカイネテックス,ファ−マコダイナミックスの知識に基づいたモルヒ ネ治療を行う

9.血漿中モルヒネ濃度が低下している病態を鑑別する

10.夜間に痛みで目が覚める状態の痛みは一両日ないに取り除くべきである

 

 参考図書一覧があります.

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104  東京都中央区築地5−1−1 

       国立がんセンター中央病院  手術部麻酔科

      Fax:03-3542-3479,Tel:03-3542-2511

     (疼痛外来,平賀一陽,五反田 純,横川陽子)

 

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がん疼痛の治療−付録編

 

参考図書

 

1.World Health Organization:Cancer Pain Relief.WHO,Geneva,1986. (武田文和訳,世界保健機関編:がんの痛みからの解放.金原出版,東京,1987.)

(WHOの3段階除痛法の開設とWHOの政策の解説で,有益である)

2.Twycross,R.G.,Lack,S.A.: Therapeutics in terminal cancer.(末期がん患者の 診療マニュアル.2版(武田文和訳),医学書院,1991.

(がん患者の症状コントロ−ルについて詳しく書かれ,モルヒネへの疑問もQ&Aで 詳述されている)

 

3.平賀一陽編:終末期医療.最新医学社,大阪,1991.

(終末期医療についてがん研究助成金の仕事をまとめたもので,在宅医療やコンサル テ −ションリエゾン精神医学についても記述されている)

4.平賀一陽編著:がん疼痛治療におけるモルヒネの使い方.ミクス社,東京,1991.

(モルヒネの実際的使い方を記述したもので,WHOの各論的な役割を果たしている )

5.麻薬及び向精神薬取締法関係法令集−(付)麻薬の管理マニアル−:厚生省薬務 局麻薬課監修,第一法規出版株式会社,東京,1990.

(麻薬の取扱いについてのの法律的な面についてはこの本を参照すること)

6.厚生省・日本医師会編:がん末期医療に関するマニュアル、中央法規出版,1989.

(医師会の会員の先生方はだいたいお持ちである.机から出して一読をお薦めする)

7.Sanders C & Baines M : Living with Dying The management of terminal disease   (武田文和訳:死に向かって生きる 末期がん患者のケアプログラム,医学書院, 東京,1990)

(がん患者の心理面とその対応について詳述されており,日本人にも一読をお薦めす る)

8.ピ−タ−・ケィ著 武田文和他訳:緩和ケア百科,春秋社,1994.

(文化や社会制度が異なっても,患者さんへの対応は同じであることがよく分かる)

9.武田文和,田村豊幸編:がんの痛みは消えた.協和企画,1993.

(モルヒネについての迷信をときほぐす本で,各施設からのモルヒネ治療の症例が満 載)

10.平賀一陽,大黒正夫,吉本文男他:「痛み止めの薬」のやさしい知識,国立がん センタ−監修,1993.

(患者さん向けのモルヒネ服薬指導書で,Q&A形式で書かれており,好評を得てい る.下記に問い合わせれば,実費《1冊500円+送料》で入手が可能である.

財団法人 がん研究振興財団 《「痛み止めの薬」のやさしい知識》の係り

104 東京都中央区築地5−1−1    Tel:03-3542-2511 )

11.平賀一陽監修:日本におけるホスピスの現状と展望,東京,協和企画通信.1988 .

(終末期医療についてがん研究助成金のワ−クショップでの講演をまとめたもの)

12.吉川 清編:痛みのハンドブック.医薬ジャ−ナル社,大阪,1992.

(がん患者の痛み治療について分担執筆されている.巻末に文献一覧がある)

13.武田文和,石垣靖子編:がん患者の症状コントロ−ル.医学書院,東京,1992.

(痛み以外の症状への対応が書かれてある)

14.淀川キリスト教病院ホスピス編:タ−ミナルケアマニュアル.第2版,最新医学 社,大阪,1993.

(痛み以外の症状への対応が書かれてある)

15.世界保健機関(武田文和訳):がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア.− がん患者への生命のよき支援のために−.金原出版,東京,1993

(パリアティブケアの新しい位置づけがなされた本である)

16.武田文和著,がんの痛みの鎮痛薬治療マニュアル.金原出版,東京,1994.

(モルヒネの実際的治療法が易しく書かれてある)

17.山室 誠:がん患者の痛みの治療.中外医学社,東京,1994.

(モルヒネ治療だけでなく,神経ブロックについても記載されている)

 

 

がん疼痛の治療−付録編

参考図書

 

1.World Health Organization:Cancer Pain Relief.WHO,Geneva,1986. (武田文和訳,世界保健機関編:がんの痛みからの解放.金原出版,東京,1987.)

(WHOの3段階除痛法の開設とWHOの政策の解説で,有益である)

2.Twycross,R.G.,Lack,S.A.: Therapeutics in terminal cancer.(末期がん患者の 診療マニュアル.2版(武田文和訳),医学書院,1991.

(がん患者の症状コントロ−ルについて詳しく書かれ,モルヒネへの疑問もQ&Aで 詳述されている)

3.平賀一陽編:終末期医療.最新医学社,大阪,1991.

(終末期医療についてがん研究助成金の仕事をまとめたもので,在宅医療やコンサル テ −ションリエゾン精神医学についても記述されている)

4.平賀一陽編著:がん疼痛治療におけるモルヒネの使い方.ミクス社,東京,1991.

(モルヒネの実際的使い方を記述したもので,WHOの各論的な役割を果たしている )

5.麻薬及び向精神薬取締法関係法令集−(付)麻薬の管理マニアル−:厚生省薬務 局麻薬課監修,第一法規出版株式会社,東京,1990.

(麻薬の取扱いについてのの法律的な面についてはこの本を参照すること)

6.厚生省・日本医師会編:がん末期医療に関するマニュアル、中央法規出版,1989.

(医師会の会員の先生方はだいたいお持ちである.机から出して一読をお薦めする)

7.Sanders C & Baines M : Living with Dying The management of terminal disease   (武田文和訳:死に向かって生きる 末期がん患者のケアプログラム,医学書院, 東京,1990)

(がん患者の心理面とその対応について詳述されており,日本人にも一読をお薦めす る)

8.ピ−タ−・ケィ著 武田文和他訳:緩和ケア百科,春秋社,1994.

(文化や社会制度が異なっても,患者さんへの対応は同じであることがよく分かる)

9.武田文和,田村豊幸編:がんの痛みは消えた.協和企画,1993.

(モルヒネについての迷信をときほぐす本で,各施設からのモルヒネ治療の症例が満 載)

10.平賀一陽,大黒正夫,吉本文男他:「痛み止めの薬」のやさしい知識,国立がん センタ−監修,1993.

(患者さん向けのモルヒネ服薬指導書で,Q&A形式で書かれており,好評を得てい る.下記に問い合わせれば,実費《1冊500円+送料》で入手が可能である.

財団法人 がん研究振興財団 《「痛み止めの薬」のやさしい知識》の係り

104 東京都中央区築地5−1−1    Tel:03-3542-2511 )

11.平賀一陽監修:日本におけるホスピスの現状と展望,東京,協和企画通信.1988 .

(終末期医療についてがん研究助成金のワ−クショップでの講演をまとめたもの)

12.吉川 清編:痛みのハンドブック.医薬ジャ−ナル社,大阪,1992.

(がん患者の痛み治療について分担執筆されている.巻末に文献一覧がある)

13.武田文和,石垣靖子編:がん患者の症状コントロ−ル.医学書院,東京,1992.

(痛み以外の症状への対応が書かれてある)

14.淀川キリスト教病院ホスピス編:タ−ミナルケアマニュアル.第2版,最新医学 社,大阪,1993.

(痛み以外の症状への対応が書かれてある)

15.世界保健機関(武田文和訳):がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア.− がん患者への生命のよき支援のために−.金原出版,東京,1993

(パリアティブケアの新しい位置づけがなされた本である)

16.武田文和著,がんの痛みの鎮痛薬治療マニュアル.金原出版,東京,1994.

(モルヒネの実際的治療法が易しく書かれてある)

17.山室 誠:がん患者の痛みの治療.中外医学社,東京,1994.

(モルヒネ治療だけでなく,神経ブロックについても記載されている)