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筑波大学麻酔科研修の手引き

10. 小児麻酔

筑波大学麻酔科 編



小児麻酔

<キャンセルのクライテリア>
	(1) 	上気道炎 (38℃以上の発熱、咳、鼻水、胸部ラ音) 
		但し、咳、鼻水はアレルギー性鼻炎、慢性気管支炎によることもある。
	(2) 	予防接種 (生菌ワクチン(BCG・ポリオ・麻疹風疹など)は1ヶ月未満、死
		菌ワクチン(日本脳炎・三種混合・インフルエンザなど)では2週間未満は	
		手術を控える。
	(3) 	胃腸症状
	(4) 	伝染性疾患 (麻疹、水痘、風疹) の罹患
		* 以上のことを手術の緊急度と考え併せて麻酔を受けるかどうか判断する。

<p前訪問>
	患児、及びその親とのラポールを得ることが大切。ある程度こちらの言うことがわ
	かる患児には入室時に行われる具体的なこと (心電図のパッチを貼るとか、マスク
	を顔に当てるとか) を不安を増さない程度に説明してあげるとよい。患児からは充
	分な情報を得ることができないことが多いので、親への問診が重要である。

<口摂取の制限>
				ミルク・固形物 		Clear Water
	・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・       
		新生児〜6ヶ月: 	4 時間		2 時間
		6ヶ月〜3才: 	6 			3   
		3才以上:		8 			4 
	・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

<前投薬>
		6カ月未満 	なし
		6カ月以上 	アトロピン 0.02mg/kg 
				アタラックスPシロップ 2-4mg/kg (max 100mg) 経口
				トリクロリールシロップ 0.7ml/kg (max 15ml) 経口  
  	* 	年長児にはアタP、トリクロのかわりにセルシン0.2mg/kg(max10mg)あ
		るいはセルシンシロップ(1mg/mlを0.3-0.7ml/kg)を投与することもある。
		患者の手 術の受け入れの程度、術前状態 (循環、意識レベルなど) や手術時
		間にあわせて量を加減する。発熱時にはアトロピンの投与は控える。
	*	ミルク後NPOとはせずに手術入室2〜3時間前にClear Water*を飲ませる。
	* 	Clear Waterは糖水・ポカリスエット・粒の入っていないオレンジジュー
		ス・アップルジュースなど、量は10ml/kgが目安。

<麻酔準備>
	(1) 麻酔回路の選択
		新生児:			Tピース (ジャクソンリース) + 加湿器
		15kg以下の乳幼児 : 	Tピース+人工鼻 (ヒューミディベントミニ) 
		15kg以上: 			小児用半閉鎖回路 (3時間以上の手術では人工鼻) 

	(2) バッグ: 体重(kg)/10(L)が目安

	(3) 気管内チューブ:   必ず前後の径のものを含め2つずつ準備する。
		新生児  			ID 	(2.5-)3.0    mm
		6カ月迄の乳幼児 		3.0-3.5  
		6カ月から1才まで 		3.5-4.0    
		それ以上は			4 + 年齢/4  

(4) 以下を基準に数種類準備する。
	・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
   	未熟児    1M  	3M  	 1Y   	2Y	6Y   	9Y   	12Y   	16Y  
	・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
	マスク  		Ohio               	イガラシ  				レールデル
          premature/newborn  	No5       No4       No3
	喉頭鏡  		直(7cm) 直(10cm) マッキントッシュ
                                           		No2       	No3        No4
	エアウェイ    	00      		0         1	2   		3     		4
	バイトブロック 	不要        小             	中        		大
	・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    

(5) 自動血圧計: 
		マンシェットは上腕周径を計測して選択する。(上腕長の最低2/3以上)
		パルスオキシメーター
		終末呼気炭酸ガス濃度モニター

(6)  輸液は以下の何れか
	1)	 乳酸リンゲル液(ソルラクト)500mlに50% Glucose 20mlを加え、
		2% Dextroseとする。
	2) 	Veen D 
	3) 	ソルデム3A (ソリタT3): 小手術で適する。
		*	 維持輸液を越える分は糖の入っていない乳酸リンゲル液を用いる。
		*	 新生児ではミニボトル付輸液セット、アイバック (持続輸注ポンプ)
			またはシリンジポンプを使用する。
		*	 延長管は原則として小児用の細いものを用いるが、急速な出血が予
			想される場合にはスムーズに輸血出来るように成人用の太いものを用
			いる。

<麻酔導入と気管内挿管>
	(1) 	モニター: 胸部聴診器・心電図・自動血圧計・パルスオキシメーターは必須
		終末呼気炭酸ガス濃度モニター
	(2)	 導入
 		1) 	点滴が留置ウれていない時はマスクによるSlow Inductionの後、
			静脈を確保し、筋弛緩薬を投与するか吸入麻酔薬で麻酔深度を深くし
			て挿管。
		2)	挿管後は必ず声門から何cm入ったか確かめる。新生児で3cm。
		3)	 挿管後20〜25cmH2O程度の圧でリークがあるくらいが適切である。
		4) 	挿管後胃チューブを挿入し胃内容を吸引する。
<麻酔薬の選択>
 		*	笑気・ハロセン・セボフルレン・麻薬 (Fentanyl) など。
 		*	未熟児では高濃度酸素吸入は避け、PaO2を50-70mmHgに保つよう
			にする。
			(網膜動脈のSpasmやBronchopulmonary Dysplasiaの予防) 
		*	ヘルニアの手術などではCaudal麻酔(後述)を併用することもある。

<術中管理>
	(1) 	血圧・心拍数
		正常値に注意。未熟児では血圧が40/20でも正常である。

			心血管系の小児の正常値
	・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
		年齢		心拍数(bpm)		収縮期血圧	 拡張期血圧(mmHg)
    	・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
		早期産児	120〜180			45〜60		30
		満期産児	100〜180			55〜70		40
		1歳児		100〜140			70〜100		60
		3歳児		84〜115			75〜110		70
		5歳児		80〜100			80〜120		70
	・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

	(2)	呼吸 
		新生児では 	呼吸数 30回/分  (成人: 12-15 回/分) 
		一回換気量 	7ml/kg   (成人: 同じ) 
		酸素消費量 	7ml/kg/min (成人: 3.5ml/kg/min)  
	(3)	 体温
			新生児未熟児は環境温度に左右されやすいので以下の方法で保温に努
			める。
		1) 	室温 (成熟児で26℃以上、未熟児及び状態の悪い新生児で32℃以上) 
		2) 	Radiant Warmer
		3)	Warmer Mat
		4) 	術野以外を面包帯とアルミホイールで覆う
		5)	吸気ガスの加温加湿 
		6)	輸血輸液の加温
	(4) 	輸液
  			維持輸液量             
			体重(kg) 	維持輸液量(ml/kg/時) 
		・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
			新生児  		3   
 			4 - 10 			4 
			11 - 20   		3             
			21 - 40  		2.5 - 3 
			41 -   			2.0 - 2.5  
		・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
            
	(5)	術中輸液量
		1)	術前の経口禁止時間、手術操作の種類、術前の脱水の有無などにより
			異なる。
		2)	ヘルニア等の小手術であれば維持輸液の2-3割増し。
		3)	開腹手術では10ml/kg/hrが大体の目安。
		4)	尿量が0.5〜1ml/kg/hrになるように輸液量を調節する。
	(6)	 出血量
 		Hct 30%が正常児のの最小許容値
		1) 	推定循環血液量 (Estimated Blood Volume)
				新生児 	90ml/kg
				1歳未満 	80ml/kg
				1歳以上 	70ml/kg
		2) 	最大許容出血量 =(EBV*患者のHct-30)/患者のHct
		3) 	出血量の補充
			* 	最大許容出血量までは、1mlの出血量に対して晶質液(乳酸加
				リンゲル液)2〜3mlで補う。

<小児麻酔用ベンチレータ (ナフィールド) の取扱>
	人手が足りないときや長時間の手術ではベンチレーターを用いたほうがいい。
	Tピース回路のときベンチレータはナフィールドを用いる。
	使用方法: 
		1) 	 小児用の呼気弁 (ニュートンバルブ) が付いていることを確認。
 			"pediatric" と書かれてある。
		2)	条件は吸気時間、呼気時間、最高気道内圧、PEEP圧で決まる。
			最高気道内圧は吸気流速でセットする。
				新生児・乳児では
					呼吸回数 25-30 回/分
					圧 20/3 cmH2O
 					吸気時間 0.7-1.0秒
		3) 	気道内圧が適切かどうかは呼吸音、胸の上がりで判断し最終的には
			SpO2で確認する。

<小児薬用量>
	ミオブロック			0.1mg/kg 
	dTc				0.6 mg/kg
	アトロピン			0.02mg/kg
	ワゴスチグミン			0.06-1.0 mg/kg
	ケタラール			1-2mg/kg iv   (5-10 mg/kg im)
	イソゾール			5mg/kg
 
	メイロン			1ml/kg
	2%塩化カルシウム		0.2-0.5ml/kg
	カルチコール			0.2-0.5ml/kg
	キシロカイン			1 mg/kg
	DC				2-5 watt/kg
 
	ソセゴン			0.5-1mg/kg  (max 15 mg)
	ドロレプタン			0.1ml/kg  (max  3 ml)  
	塩酸モルヒネ			0.1 mg/kg
	セルシン			0.3-0.7mg/kg iv
	フェンタネスト			5μg/kg
	ミダゾラム			0.02mg/kg

	ソルコーテフ			5mg/kg
	イミダリン			1 mg/kg

<小児循環器外科の麻酔>
	1)	 前投薬: 患児の状態に合わせて上記の投薬を加減して行う。
		特にチアノーゼ性心疾患でより強く鎮静したい時は入室15〜30分前にモル
		ヒネの筋注を加えてもよい。
	2) 	導入 : 末梢点滴が入っていない時、あるいは入っていてもそこからプロス
		タグランディンなど特殊な薬物を持続注入しているときはGOS または GOF
		マスクによる緩徐導入あるいはケタミン5mg/kg筋注によって導入し、点滴
		を確保する。
			(ケタミンを用いる時は必ずアトロピンを前投与すること。) 
	3) 	ライン : 末梢点滴、動脈ライン以外にDouble Lumen 4FrまたはTriple 
		Lumen 5.5Frの中心静脈カテーテルを入れるとよい (圧測定用と薬液注入用
		に) 。
	4)	 維持: 多くはFentanylを10-50μg/kgに、笑気、イソフルレン、セボフル
		レン、ハロセンを適宜併用し、Vecで筋弛緩を得る。 (開心術は成人に準ず
		る。) 
	5) 	薬物: 成人の開心術のさいに用意するもの以外に、イソプロテレノール 
		(2μg/kg) 、フェニレフリン (5-10μg/kg) などをBolusで使えるように
		準備しておくとよい。
		*	小児には持続で用いる強心薬にもイソプロテレノールが好んで用いら
			れる。また、持続で薬物を投与するときは成人のときよりも濃 度を
			濃くして、Volumeがあまり入らないようにする工夫も大切である。
			(例: 	イソプロテレノール: 1ml=0.02μg/kg/min、
				Dopamin: 1ml=5μg/kg/min)
	6) 	圧測定ラインは、3方活栓の先を細いものに変更し死腔量を減らす。
		*	術前にシリンジポンプを3〜4台430病棟から借りておく。
		*	1mlのシリンジに1回量の薬液を分けて用意しておく。

<伝達麻酔 >
 (1) 小児仙骨麻酔
	1)	 適応 : 下腹部、会陰、下肢の手術
			(鼠径ヘルニア根治術、陰嚢水腫根治術、尿道下裂、等) 
		麻酔施行後、3-5時間の観察が必要。
	2) 	禁忌 : 刺入部の皮膚に炎症のあるとき
		血液凝固異常
		循環血液量の減少が著しいとき
		脊髄髄膜瘤のあるとき
		肺高血圧と心疾患を合併するとき
	3) 	方法: 
		*	気管内挿管あるいはラリンゲアルマスクによる全身麻酔のもとで行う。
		* 	若干内側へ倒れた側臥位をとり、穿刺の前に仙骨角と仙骨裂孔をはっ
			きりと確認する。
		* 	仙骨硬膜外腔の穿刺は仙尾靭帯を貫くだけであるが、できるだけ頭側
			で穿刺する。
		* 	仙骨麻酔施行時には、体位変換時の気管内チューブのずれに注意し換
			気をしっかり行うこと。
	4) 	局所麻酔薬の投与量
		* 	リドカイン投与量(ml) 0.05×体重(kg)×必要分節数 
			リドカイン 体重8kg未満の患児には、1%リドカイン8-20kgの患児
			には、1.5%リドカインを用いる。
			但し、体重当りのリドカイン投与極量は、10mg/kg。
 		* 	ブピバカイン投与量(ml) 0.125または0.25%マーカイン 0.06ml/kg
				×必要分節数(最大量: 3.5ml/kg)
 		* 	局麻必要量算出モノグラムを用いるのも可。 
	* 	20万倍または、40万倍エピネフリンを添加する。
(2) 硬膜外麻酔
	1)  	小児仙骨麻酔に準ずる。
	2) 	硬膜外腔までの距離は1〜2cmと浅く、硬膜誤穿刺し易い。
	3) 	Tuohy針は19Gのセットを用いる。


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Last Modified: Mar. 20 1996