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筑波大学麻酔科研修の手引き

4. 全身麻酔

筑波大学麻酔科 編



全身麻酔

<準備>
	1) 	マスク、喉頭鏡、気管内チューブ、カフ用注射器、エア・ウェイ、
	  	 バイトブロック、聴診器、チューブ固定用絆創膏、 (ヘッドストラップ) 
	2) 	手術台の高さをマスク換気に適した位置に合わせ (患者顔面=麻酔科医の
	  	剣状突起のレベル) 、Sniffing Positionにする。
	3) 	心電図、SpO2、ETCO2モニター、胸部X線、吸引の準備の確認

<急速導入法 (Rapid Induction)>
 	1) 	O2 6 L/分 投与 (健康成人では入眠するまではマスクを顔に押し付けない) 。
 	2) 	イソゾール4-6mg/kgをゆっくり静脈内投与。入眠し、睫毛反射が消失、
		自発呼吸が減弱ないし消失したら、気道を確保しマスクをあてて、(G)OI
		または(G)OS、O2+Fentanyl等で補助呼吸もしくは調節呼吸を行う。患者
		が必要充分に換気されていることを視診、聴診等により確認する。
 	3)	 通常ベクロニウム (0.1-0.2mg/kg) 等の筋弛緩薬を投与し、気管内挿管を
		行う。
 	 	 ベクロニウムでは、筋弛緩モニターによりほぼ100%の収縮抑制を確認する
		か、(投与量その他により異なる) 90-120秒待って臨床的に充分な筋弛緩が
		得られていることを確認した上で挿管操作に移る。
 	4) 	左手で喉頭鏡を持ち、舌の右側からブレードを挿入し (舌を巻き込まない) 、
 	 	 喉頭蓋を確認し、さらに進めて挙上し、声門を展開。
 	 	 4%キシロカイン(2mg/kg)を気管内にスプレーした後、挿管する。チュー
		ブは カフの上縁が声帯を2-3cm越えたところ(チューブの黒い線が見えな
		くなるところ)で止め、切歯の位置での長さを確認する 
 	 	  	(通常、男 20-23cm、女 18-21cm) 。
 	5)	 カフに必要最小限 (20cmH2Oの気道内圧でリークの生じない程度) の空気
		を入れ、換気を行いながら、両肺野 (特に肺尖部) を聴診し左右差・
		Wheezingのないことを確認する。
 	6)	 脈拍、血圧をみながら吸入麻酔薬の濃度を調節する。通常の設定は以下の
		通り。
 	 	  	O2 2L/分、 
			N2O 4 L/分 
 	 	  	イソフルレン 	0-0.5 %(NLA、硬膜外麻酔時)、 
						0.5-1.5 %(GOIのみの時)
 	7) 	チューブを絆創膏で固定し、バイトブロックまたは エアウェイを挿入(歯の
		無い場合は上顎のみに固定する)。
 	8) 	必要により、経鼻胃管、食道内聴診器、各種体温計、導尿カテーテル等を挿
		入留置する。

* 導入時の注意点
 	1) 	換気が充分であることを、胸郭の挙上、ETCO2モニターなどで確認するこ
		と。
 	 	 心電図の確認、血圧測定を怠らないこと。
 	2) 	エアウェイが必要な時は、十分に麻酔深度が深くなってから挿入すること。
 	3) 	麻酔医は、喉頭展開の後は声門部から目を離さない。
 	4)  	介助者は、患者の右口角部を引っ張り麻酔医の視野を確保する。もし、十分
		に 声門が観察できなければ、甲状軟骨を圧迫する。

*挿管困難が予想される場合
 	1) 	首の短い患者
 	2)	舌の大きい患者
 	3) 	口腔の小さい、下顎の発達していない患者(Pierre-Robin syndrome)
 	4) 	首の伸展の制限されている患者
 	5) 	気道に変形のある患者 (喉頭腫瘍、気管腫瘍、気切後など) 
 	6) 	大きなまたは突出した門歯

<その他の全身麻酔導入・気管内挿管方法>
 (1) クラッシュ・インダクション (Rapid Sequence Intubation)
 	 	 適応: 誤燕を生ずる可能性のある患者(Full Stomach)
 	 	 方法: 
	 	 	1) 	胃内容の吸引
 	 	 	2) 	Precuralization : 
						(成人)  dTc 3 mg または Vec 0.5-1.0 mg
	 	 	 3) 	十分に酸素を前投与する(100%酸素を7呼吸以上)
	 	 	 4) 	イソゾール 2-7mg/kg、サクシン 1.5-2mg/kg 静注後、
				クリコイド・プレッシャー(介助	者)。陽圧換気はしないこと。
	 	 	 5)	気管内挿管は、下顎の筋弛緩が得られたらすぐに行なう。
	 	 	 	挿管後、カフに空気を入れ、換気を確認してから、クリコイド・
				プレッシャーを解除する。
   
 (2) 覚醒下挿管(Awake Intubation)
	 	適応: 	新生児、Full Stomach、挿管困難症、shock、頚椎症、RAの環軸椎
			亜脱臼
		方法: 
	 	 	 1) 	鎮静状態を得る(フェンタネスト、セルシンなど)
	 	 	 2) 	気道の表面麻酔(咽頭、喉頭、気管、(鼻腔))
	 	 	 3) 	 i) 直接喉頭鏡
 	 	     		ii) 盲目的経鼻挿管(エンドロール・チューブ)
	 	 	    	iii) ファイバー・スコープのガイド下

 (3)盲目的経鼻挿管(Blind Nasal Intubation)
	 	適応 : 	頚椎症、RAの環軸椎亜脱臼など頚部の後屈が禁忌である患者、
	 	 	 	開口障害(2横指以下)
	 	 	 	術前のチェック項目 : 左右どちらの鼻腔に空気の通りがよ
						いかを確認する。
 					 	(鼻中隔は、必ずどちらかに偏位している) 
	 	準備 : 	エンドトロール (マリンクロット社製、φ 6.0, 7.0, 8.0) 
	 	 	 	8%キシロカインスプレー、又は、表面麻酔用スプレー噴霧器 
	 	 	 	4%キシロカイン液 2mg/kg (2.5 ml のテルモシリンジ+23G
				針で準備)
	 	 	 	綿棒、シャーレ、ハイアミン液、ネオシネジン
	 	 	 	マギール鉗子
	 	 	 	モニター:ECG、パルスオキシメーター、EtCO2
	 	手技 : 
	 	 	 1) 	フェンタネストやミダゾラムあるいはジアゼパムなどを用いて
				軽く鎮静する。
	 	 	 2) 	表面麻酔用4%キシロカインで鼻腔、咽頭、気管内を十分に表
				面麻酔する。(鼻腔・咽頭にはスプレーを、気管内には23G針
				とシリンジを用い(成人で約 2ml)、甲状輪状膜を穿刺して行
				う。)
	 	 	 3) 	ボスミンを含むハイアミン液を浸した綿棒でチューブの挿入方
				向を確認し、同時に鼻腔の清掃も行う(消毒および出血予防)。
	 	 	 4) 	気管内チューブはエンドトロールを用いる。
	 	 	 5) 	口と、反対側の鼻孔を閉塞し、患者の吸気に合わせてチューブ
				をゆっくり進める。
	 	 	 6) 	呼気時には呼気によるチューブの曇り、呼気炭酸ガス濃度、呼
				気音をモニターする。チューブの先端の左右への偏位は前頚部
				の膨隆、前後への偏位は食道内挿管や抵抗として認識される。
	 	 	 7) 	気管内に挿管されたらすぐにカフを膨ませ、流入した血液や分
				泌物を吸引する。
	 	 	 8)	聴診により、両肺が換気されていることを確認する。
	 	成功の秘訣 : 患者の十分な理解と協力、適度な鎮静、十分な表面麻酔、頭の
				位置

 (3) 吸入麻酔による導入(Slow Induction)   
		 *	適応: 乳幼児、喘息患者の一部
		 *	方法: 
			1) 	O2 2L/分、N2O 4-6L/分で導入開始。
			2) 	2-3呼吸ごとにセボフルレン (ハロセン) 濃度を0.5%ずつ増加
				させる。
			3) 	通常、静脈路を確保したのち、筋弛緩薬を投与し気管内挿管す
				る。

(4) ケタラールの筋注・静注          
		 *	適応 : 喘息患者、乳幼児
		 * 	喘息の患者ではSCC、塩モヒなどヒスタミン遊離作用のある薬剤の投
			与は禁忌である。イソゾールの使用は差し支えないが、吸入麻酔薬で
			充分麻酔深度を深くしてから挿管すべきである。ケタラールによる導
			入もよい方法とされている。
		 *	ケタラールは気道分泌物を増やすことに注意する。

(5) 静脈麻酔
		 *	適応 : Drug		 *	方法 :
		  	1)	スタドール、ミダゾーラム等のNLA変法を併用することが多い。
		  	2)	イソゾール 2 mg/kg 投与 (必要に応じて追加投与) 
		  		  O2 2 L/分、N2O 4 L/分で Mask Ventilationを行う。
		 * 	帝王切開術とD&Cナは子宮収縮薬(メテルギン)の準備も忘れないよう
			に!

<ヰ撃フ維持>

(1)  吸入麻酔薬の設定
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・                  
        MAC(100%O2)	MAC(70%N2O)	 	常用濃度
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・                  
  N2O       105%   	0.66 MAC     	0-66%
  エンフルレン  1.68%   	0.57%     		1-2%
  ハロセン    0.75%   	0.29%      	0.5-1.5%
  イソフルレン  1.15%   	0.5%      	0.5-1.5%
  セボフルレン  1.71%   	0.66%     		1-2%
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・                  
	* 	硬膜外麻酔が主体のときはイソフルレン 0.5 % 以下、セボフルレン1.0%以
		下、またはフェンタネスト 3μg/kg, iv で維持することが多い。
	* 	高齢者、未熟児、麻薬の併用、酸塩基平衡異常、低体温、heavy な前投薬
		などでMACが低下することに注意すること。
	* 	カプノマックで呼気吸入麻酔薬濃度をモニターするのが望ましい。

(2) 麻酔維持中は適正な気道確保(Airway)、呼吸(Breathing)、循環(Circulation) 
		及び麻酔深度、筋弛緩状態を保つこと。
		各種モニターを利用するとともに、視診、触診、聴診を怠らないこと。
	* 	口腔内の手術、気道内の手術は気道のトラブルが多いので充分注意すること。
	* 	側臥位・腹臥位の手術では気管内チューブのトラブルは致命的である。
	*	 体位変換時の血圧低下に注意すること。

<ヰ撃フ覚醒と抜管>
(1) 麻酔の覚醒および筋弛緩の回復
	* 	通常、手術終了時に抜管し帰室できるよう吸入麻酔薬濃度を徐々に減少させ
		る。筋弛緩薬使用時は筋弛緩が必要でなくなった時点 (腹筋を閉じ終えたと
		きなど)で、充分な自発呼吸の回復を確認しリバースを行う。
	* 	呼気麻酔薬濃度測定 (カプノマック) や筋弛緩モニターの使用が望ましい。
	* 	術後呼吸器合併症 (食道全摘術後など) 、意識障害 (開頭術後、脳圧亢進例
		など)等の評価を行い、リスクが高いときは抜管せず術後も呼吸・循環の管
		理を継続すべきである。
	* 	開頭術後、網膜剥離の手術、喘息患者などでは抜管してから覚醒させること
		もある。

(2)  麻酔の覚醒及び筋弛緩の回復の評価
	* 	PAR Score を参考にして麻酔の覚醒及び筋弛緩の回復の評価を行う。
	*	 臨床的には5秒間頭を持ち上げることができるか (TOF70%に相当) 、深呼
		吸できるか、バッキングするか (咳反射が保たれていれば誤嚥する可能性が
		低い) 、舌突出が可能か (舌根沈下の予測) などが重要である。
	* 	血液ガス測定、パルスオキシメータ、分時換気量測定など客観的な測定を行
		うこと。
		自発呼吸でPaCO2が50mmHg以下ならば、抜管は可能である。
	* 	脊椎麻酔、硬膜外麻酔の回復の評価も行う。ブロック範囲がTh4以上のとき
		心臓交感神経がブロックされているので、体位変換時などに低血圧、徐脈を
		生ずる危険が高い。

(3) 抜管の手順
	1)	 すぐに気道確保のできる用意(マスク、喉頭鏡、聴診器)をする。
	2) 	気管内、口腔内、胃内を充分に吸引する。
	3) 	気道内圧を20cmH2Oまでバッグで加圧し、カフの空気を完全に抜いて抜管
		する。
	4) 	分泌物のサクション。酸素投与。
	  	その前後で両肺野の聴診を充分行い、肺野異常のないことを確認する。
	5) 	抜管後、さらに全体に異常のないことを確認してから帰室を許可する(麻酔
		終了) 。

(4) 麻酔覚醒スコアー(Postanesthetic Recovery Score;PAR Score)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
 			項目 				  	  	  	  点数   
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
	運動 自発、命令により活発に動く、頭部挙上可能(15秒) 	2      
	動きが弱い									1      
 	動かない									0      
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
	呼吸 咳・深呼吸、あるいは泣く					2      
	気道が充分に確保されている						1      
	エアウェイの挿入が必要						0      
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
	血圧 術前と比較し 	±20mmHg 以内 				2      
					±(20-50)mmHg				1      
					±50mmHg 以上				0      
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
	意識充分に覚醒している、あるいは呼名にすぐ反応する	2      
	痛みに反応し、防御反射がある					1      
	痛みに反応しない							0      
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
	色  	血色良好								2      
		血色不良、蒼白、鳥肌様 					1      
		チアノーゼ 							0      
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    
	合計										10      
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    


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Last Modified: Mar. 20 1996