人工呼吸

A.人工呼吸の適応(開始)基準

人工呼吸の適応(開始)基準は,その基礎疾患や呼吸不全の病態の違いによって異なった考え方が必要であり,一律に数値で表せるものではない.

1. 肺の役割
混合静脈血を酸素化するとともに炭酸ガスを除去して末梢の代謝の要求に十分安定した動脈血の酸素、
炭酸ガスの組成を維持すること
このためには
1)正常な換気
2)肺における正常な換気/血流の分布と接触面積(拡散)
3)正常な循環
が保たれることが必要であり、PaO2の低下とPaCO2の上昇が間題となる.
1)3)がアンバランス・・・換気血流不均衡

2. 呼吸不全の定義
1)PaO2<50mmHg↓ (空気呼吸時)・・・・・・・酸素化不全(障書)
2)PaCO2>50mmHg↑(吸入酸素に関係なく)・・・換気不全(障害)
これを改善しようとする一つの手段が人工呼吸である.

3. 人工呼岐器の原理と作動方式
人工呼吸とは、息者の肺の換気を器械的に補助または完全に息者に変わって代行する方法である。
大きく分けて次の2つに分けられる.
1)従圧式
吸気圧が一定に達すると自動的に吸気相に変わるもの。換気量、呼吸回数は設定できない。
2) 従量式
一定員のガスを送り込むと自動的に吸気相に変わるもの.こちらが、主流.

B.方法

1.気管内挿管,気管切開を施行しての人工呼吸

a.各種換気モード
1)間欠(的)陽圧換気(Intermitttent positive pressure ventilation:IPPV)
(1) 吸気時のみ一定の間隔で気道に陽圧をかけて行う人工呼吸法で,陽圧換気の基本となる
(2) 1回換気量,呼吸回数,吸気流速などはあらかじめ設定され,同一条件の換気を繰り返す.
(3) 自発呼吸のない状態,もしくは自発呼吸を鎮静薬により消矢させた状態では,
controlモードで換気を行う.
(4) 自発呼吸のある状態ではassist controlモードを用いる.
自発呼吸数がlPPVの設定呼吸数を上回る場合,自発呼吸のタイミングに合わせて設定された
換気が行われる.トリガー感度の設定が必要.

2)持続(的)陽圧呼吸(continuous positive pressure vetilation:CPPV),
呼気終未陽圧(positive end expiratory pressure:PEEP)
(1) IPPVでは気道内圧が呼気終未において大気圧になるのに対して,CPPV(PEEP)では呼気終未
においても陽圧が加わったままの状態となる.
(2) PEEPを用いることで,虚脱肺胞の再拡張や機能的残気量(functional residualc apacity:FRC)
の増加などが起こる結果,PaO2の上昇が期待される.
(3) 肺の圧損傷や静脈還流の障害,心拍出量の低下などに要注意.
(4) 吸気酸素濃度(fraction of inspired oxygen:FlO2)<0.6でPaO2>60Torrを目標にPEEPを設定.
(5) PEEPの欠点
循環抑制:胸腔内圧が上昇が静脈還流を阻害し心拍出量を遮少ぜしめるため。
しかし、一定の圧力がかかるまではその影響が現われない。
肺気腫、気胸、気縦隔などの気庄傷害:20cmH2O以上のPEEPは要注意
脳潅流圧低下
尿量低下(腎血流低下にょる)
  禁忌:ショック時,循環血流量滅少時,COPD,拘束性肺疾息,細苗性肺炎,肺腫瘍,膿胸,気胸

3)間欠(的)強制換気(intermittent mandatory ventnation:IMV),
同期式間欠(的)強制換気(synchronized IMV:SIMV)
(1) IMVは患者の自発呼吸は残したままで,患者の白発呼吸のタイミングとは同期せずに,
あらかじめ決められた回数,1回換気量,吸気流速で強制換気を行う.
IMVでは、自発呼吸と器械呼吸は互いに無関係に行われるためファイティングを起こすことがある.
これを改善したのがSIMVである.
(2) SIMVではIMVの強制換気が,設定された監視時問内の最初の自発呼吸に同期して行われる.
lMVモードと似ているが器械による呼吸が息者の自発呼吸と同調して開始ざれるようになっている.
それを感知するのがトリガ-レヴェルである.
息者の呼吸がなければ、または感知されなければ設定された間隔で器械換気が行われる.
(3) IMVの回数は,分時換気量およびpH,PaCO2などの値により設定する.

4)圧支持換気(pressure support ventilation:PSV)
(1) すべての自発呼吸が吸気ごとに設定圧で補助され,呼吸仕事量が軽減される.
器械による呼吸が無いため換気量そのものは息者の吸気努力のみに頼るので、
患者に十分なな自発呼吸があることが必要である.
(2) 患者は吸いたい量だけ吸いたい時間だけ吸気を行うことができ,患者とベンチレータの同調性が
優れた換気モードである.
(3) 支持圧は1回換気量が10〜12ml/kgになるように設定する.
呼吸数の変化(頻呼吸の解消)も支持圧設定の参考となる.
(4) 換気量は保証されない.
(5) IMVや持続(的)陽圧気道圧(continuous positive airway pressure:CPAP)との
組み合わせも可能.

5)逆比換気(inversed ratio ventilation:lRV)
(1) 通常の換気モードの吸気相呼気相との時間比は1:2が基本であるが,lRVでは2:1程度に
逆転した設定を行う.
(2) 最大吸気圧の低下や,FRC増加,PaO2上昇などが期待される.
(3) 非生理的な呼吸を強いられるため,十分な鎮静と筋弛緩が必要とされる.

6)CPAP持続(的)陽圧気道圧(continuous positive airway pressure)
(1) 自発呼吸のもとで持続的に気道内圧を陽圧とすることで,肺酸素化能が改善されると共に,
呼吸仕事量が減少する.
(2) 自発呼吸が残されるため,気道内圧や胸腔内圧が低く抑えられる.
(3) 10cmH2O程度から開始し,FIO2く0.6でPaO2>60Torrを目標に圧を設定する.
必要があれば,30cm H2O程度の圧も用いられる.
(4) 換気量は保証されない.
(5) 30回/分以上の頻呼吸や,奇異呼吸,陥没呼吸,署明な発汗,PaCO2の上昇などは,
CPAPの限界を示唆する所見である.
(6) CPAPが限界と判断された場含は,PSVを加えるか,CPPVモードに切り替える.


b.初期設定の目安
1) 急性呼吸不全
(1) 十分な自発呼吸を残した状態で管理ができる場合には,CPAPやPSVあるいはCPAP+PSVで
開始することができる.
(2) 多くの急性呼吸不全症例は,気管内挿管に伴う苦痛や不安から十分な鎮静や筋弛緩が必要と
される.この場合は,IPPVのcontrolモードで人工呼吸を開始する.
(3) controlモードで換気を開始する際の初期設定
FIO2=l.0
1回換気量=12ml/kg/分
呼吸回数=15回/分
(4) パルスオキシメータ(SpO2)があれば,SpO2を確実に90%以上保てるレベルまでFIO2を下げる.
(5) 人工呼吸開始後20分程度の時点で動脈血ガス分析を施行し,pHおよびPaCO2の値を正常範囲内
に保てるように換気量増減の判断を行う.SpO2モニターがない場合は,100%酸素吸入時のPaO2
の値から,目標とするPaO2を得られるFIO2を予測し設定する.
初期設定は、0.5〜0.6.その後、PaO2が80〜100mmHgとなるように調整.
酸素中毒に注意.
*酸素中毒:高濃度の酸素の吸入によって生ずるものである.
高濃皮酸素の吸入は末梢気遣の閉塞、無気肺、肺シャントの増大をきたす.
長期にわたる高濃度酸素の吸入は、血管周囲性肺水風から間質性肺水腫、肺うっ血、
肺胞出血、硝子膜形成、肺施壁全体の肥厚と不可逆性の肺変化をきたす.
(6) 必要に応じてさらに血液ガス分析を繰り返し,換気量の再設定を行う.
(7) シャントが大きい症例(FIO2>0.5でPaO2く60Torr)では,PEEPを用いてPaO2を上昇させた
後,FIO2の低下を図る.
(8) PEEPは5cmH2O程度から開始し,必要に応じて2〜3cm H2Oずつ上昇させる.
PEEPの効果は,設定変更後少なくとも30分以上の時問をかけて判定する必要がある.
(9) 高濃度酸素による肺傷害を防ぐために,FlO2はできるだけ早く0.6以下に下げることを意識して
諸設定を行う.

2)慢性呼吸不全の急性増悪
慢性呼吸不全(PaCO2上昇を伴う)の急性増悪の場合,急性呼吸不全とは異なった対応が必要である.
(1) 鎮静薬の使用や胸腔内圧の上昇により,急激に循環抑制を来すことがある.
自発呼吸を保ってIMVやPSVを選択したほうが,循環系の管理がしやすいことも多い.
(2) 換気量の設定はおおむね8ml/kg程度が目安ではあるが,PaCO2の目標値をよく考えておくこと
が大切である.
(3) 設定した換気量に依存するPaCO2の目標値は,pHを正常範囲に保てる値であり,王常値である
40Torrを目標としてはならない.慢性安定期の血液ガスデータがあれば参考となる.
(4) 過大な換気量の設定によって起こる急激なPaCO2の低下は,重篤な不整脈,けいれん,不可逆性
の脳障害などを起こしうる.

2.非侵襲的人工呼吸
a.鼻マスク,顔マスクを用いた方法
l)nasal CPAP
(1) 閉塞型睡眠時無呼吸症候群が主たる適応.
(2) 急性左心不全,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstrucdve pulmo‐nary disease:COPD),
気管気管支軟化症(tracheobroncho‐malasia)などでの有用性を認める報告もある.
(3) 気管内挿管や気管切開に比べて,患者の生活の質(quality of life:QOL)を損なわないことが
最大の利点である.
(4) マスク装着の違和感と,上気道や眼の乾燥・刺激症状が主な欠点である.
2)nasal BiPAP(bi-level positive airway pressure)
(1) 吸気時と呼気時に別々に気道に一定の圧をかけて換気補助を行う.
(2) フローセンサーによって吸気と呼気の切り替えが感知され,吸気時の圧(IPAP〔inspiratory
positive airway pressure〕)と呼気時の圧(EPAP〔expiratory positive airway pressure〕)
を,各々独立させて異なる圧で設定することができる.
(3) フローセンサーの応答時問は20ミリ秒と速く,しかも高流量で吸気を補助できるため,
PSVとしての使用が可能となる.
(4) 急性呼吸不全,慢性呼吸不全の急性増悪などで気管内挿管を回避できたとする報告も多い.
(5) その他の利点,欠点はnasal CPAPに準ずる.
3)nasal lPPV
(1) 鼻マスクを用いてIPPVを行う.
(2) さまざまな呼吸不全症例に対する有用性を示す報告は多い.
(3) 侵襲が少ない反面,挿管された状態と比べ,換気量の保証を得にくい.

b.胸郭外陰圧式人工呼吸
1)胸郭全体をチャンバーで包み込み,チャンバー内を陰圧にすることで,胸郭を拡張させ換気を行う.
2)挿管の必要がない.
3)酸素濃度や換気量の設定はできない.
4)主として,慢性呼吸不全患者の換気補助に用いられる.

C.ベンチレータがらの離脱(ウィー二ング)

1.ウィー二ングの前提条件
(1) 循環動態の安定
(2) 感染のコントロール
(3) 酸塩基平衡の是正
(4) 意識レベルの改善
(5) 呼吸抑制作用を有する薬物の排除
(6) 栄養状態の改善

2.ウィー二ングの開始基準
急性呼吸不全のウィーニング閲始の墓準値
換気予備力
呼吸数(回/分)<30
肺活量(ml/kg)12〜15
1秒量(ml/kg)>l0
MIP(絶対値cm H2O)>25
分時換気量(l/分)<10
酸素化能
PaO2(FIO2=0.4)(Torr)>70
AaDO2(FlO2=1.0)(Torr)く350
換気能力
PaCO2(Torr)く45
VD/VT く0.58

慢性呼吸不全
症例ごとの差が大きく,数値で表すことは難しい.ウィーニングに先だって,感染のコントロール,循環の安定,栄養状態の改善などを総合的に茎成することが重要である.

3.ウィーニングの方法
1) on-off方式によるウィーニング
ベンチレータを外して自発呼吸の時問を徐々に増やしていく方法.
2) IMVによるウィーニング
患者は自由に呼吸し,間欠的に設定された回数で,しかも設定されたl回換気量で強制煥気を受ける.
IMVの回数を徐々に減らすことで,ベンチレータからの離脱を目指す.
3)PSVによるウィーニング
支持圧を徐々に下げながらベンチレータからの離脱を目指す.

4.ウィーニング経路
a.酸素化能がよい場合    b.酸素化能が悪い場合

    

5.ウィー二ング継続中止の徴候
(1) 努力呼吸,奇異呼吸
(2) 呼吸数>40回/分
(3) PaO2く50Torr
(4) PaCO2の上昇とアシドーシスの進行
(5) 血圧上昇
(6) 頻脈
(7) 不整脈多発
(8) 不穏状態
(9) 著しい発汗

D.人工呼吸管理中のモニター

酸索化と換気の指標
1) パルスオキシメータ(SpO2)
(1) 動脈血酸素飽和度(arterial oxygen saturation:SaO2)を非侵襲的に連続モニターできる.
(2) FIO2設定のための動脈血ガス分析の施行回数を減らすことができる.
(3) 低酸素血症(肺酸素化能低下)の早期発見に有用である.
(4) 指尖プローブが一般的だが,耳その他で便用できるプローブもある.
2)呼気終末二酸化炭素分圧(end tidal partial pressure of carbon dioxide:PETCO2。)
(1) 肺胞換気量の評価目的に便用する.
(2) 気管内チューブとベンチレータ回路の接続部分にセンサーまたはサンプリングチューブを
組み込んで測定する.
(3) PETCO2は,PaCO2とほぱ一致する.
(4) 分時換気量設定の目安として有用.

換気カ学的指標
1) 気道内圧
(1) 気道低抗や胸郭・肺コンプライアンスの変化を示す.
(2) ベンチレータ回路や気管内チューブのリーク(漏れ),脱落,屈曲,狭窄などの検出にも
有用である.
2)呼気換気量
設定換気量の確認.リークの有無.
3)コンプライアンス
dynamic complianceもしくはeffective complianceの測定.
3.循環系の指標
(1) 血圧
(2) 脈拍数
(3) 中心静脈圧
(4) 肺動脈圧
(5) 心拍出量

呼吸器装着時のチェックポイント
(1) 胸郭の持ち上がりは?
(2) 聴診上異常はないか?(呼吸音の性質、強弱などは覚えておく)
(3) 呼吸の回数は?
(4) 血液ガスの値は?

呼吸器、回路のチェックポイント
(1) 気管内チューブがkinkingしていないか?
(2) 蛇管が折れ曲がっていないか?
(3) 加湿器の温度は適当か?
(4) カフのもれはないか?
(5) 回路のはずれやすい箇所、リークしやすい箇所
カフもれ
気管内チューブとの接続部分
蛇管の接続箇所
加湿器と回路の接続部分
(6) 蛇管に水が貯まり気道に流れ込まないか?
(7) 呼吸器のチェック
一回換気量、呼吸数のチェック
分時換気量のチェック
PEEP圧のチェック
最高気道圧のチェック
アラーム設定値のチェック

ファイティング時のチェックポイント
(1) 呼吸器は正しく作動しているか?
(2) 気道の閉塞はないか?
(3) 低酸素血症、高炭酸ガス血症は?
(4) 意識レベルは?
(5) 分泌物の貯留はないか?
(6) 肺は硬くないか?
(7) 最後に麻薬、鎮静剤を投与したのはいつか?

処置
呼吸器モード、換気条件の変更
薬剤の投与(麻薬、鎮静剤、筋弛緩剤)