消化管出血プロトコール

 

宮崎市郡医師会病院 救急治療部

 

目次

 

 

 

1.来院時

*    胃洗浄

*    内視鏡時のチェック

*    体位変換時の注意

2.上部消化管出血患者の内視鏡の見方

3.エタノール局注の適応

4.エタノール局注のコツ

5.クリップ止血

6.特殊な出血

*    マロリーワイス症候群

*    逆流性食道炎

*    胃粘膜下腫瘤からの出血(平滑筋腫からの出血)

*    食道胃静脈瘤からの出血の場合

7.硬化療法

*    硬化療法の要領

*    硬化療法後の処置

8.出血源不明の時

Dieulafoy潰瘍,接合部静脈瘤・胃静脈瘤,十二指腸憩室出血

9.下部消化管出血

虚血性大腸炎,薬剤性大腸炎,潰瘍性大腸炎,メッケル憩室,大腸憩室,直腸潰瘍

 

 

1.来院時

  吐下血の患者が来院したら、まず末梢より点滴を確保し、採血を20ml・交差分まで含めて行う。出血性のショック状態であれば末梢を二本確保するか、14Frの中心静脈ラインを入れる。HB・HC・Wa氏などの感染症の検査も原則として来院時に行う。

 

  内視鏡の検査は通常は外来にて胃洗浄後すぐに行うが、ショック患者の場合には、ショック状態がある程度改善されてから行ったほうが良く、出来れば輸血を始めてからの方がよい。しかし新鮮血の流出がどんどん有り、血圧が上がらないようであれば、集中治療室に入れ、点滴を全開で落とすか、もしくは未交差でもよいから輸血を行いながら素早く内視鏡を行う。交差はHctが30前後であれば必要なく、Hctが20前後であればMAP-10単位(5本)・FFP-10単位の交差を来院時に行い、出血の状況を見ながら輸血を始めるが、原則として若年者の場合には補液にて血圧が維持できるようであれば輸血はしないほうがよい。

 

 胃洗浄

 

  吐下血の症例は全例、来院時に冷生食にて胃洗浄を行い、胃内血液の有無を調べ、血液があればその性状・量をチェックし、出来るだけ綺麗になるまで洗浄して内視鏡検査に備える。

  冷生食を使用するのは血管収縮を期待してのことであるが,これに対して冷生食は血小板の活性を阻害し,血栓形成を阻害するため,常温もしくは温生食を使用すべきだとの意見もある.いずれの理屈も正しいが,いずれも臨床的には証明されていないため,どちらを選択しても良いと思われる.

 

 新鮮血流出があれば、時間にかかわらず、緊急内視鏡を行う。

 コーヒー残渣の時は、

  日勤帯であれば、緊急内視鏡を行なう。  

  当直帯ではケースバイケースだが、準夜帯で人がそろっていれば内視鏡を行い、深夜帯では原則として行わず、翌朝に行う。

 

 内視鏡時のチェック

 

  全身状態の悪い人で、内視鏡を行うときに一番注意すべきは意識レベルのチェックと、呼吸状態のチェックおよび誤嚥のチェックである。食道内に血液が満ちてくれば、マウスピースを付けていると、血液を誤嚥しても痰の喀出が出来ない。歯の無い人は最初からマウスピースを外して内視鏡を行ってもよいし、歯のある人でも、内視鏡を噛まれないように気を付けながら,マウスピースを外して口腔内に溜まっている血液を喀出させる。内視鏡中は絶えず呼びかけを行い、意識レベルが正常であることを確認しながら行う。内視鏡中に血圧が低下し、意識レベルが落ちたり、誤嚥を起こしたりすれば、すぐに内視鏡を引き抜き、場合によっては挿管して気道確保を行って集中治療室に入れ、全身状態を改善させてから、必要であれば再度内視鏡を行う。長く内視鏡を行っていると、心停止まで来たしたり、不整脈を誘発したりすることがあるため注意が必要である。特に虚血性心疾患の既往のある人には注意して素早く内視鏡を行う。出血量が多く、内視鏡的に止血が困難と判断したら、早めの開腹術を考慮したほうが安全な場合もある。

 

 体位変換時の注意

 

  内視鏡を胃内に挿入しながら出血源を捜して体位変換を行うときは、内視鏡はまっすぐにして、ロックを外し、食道まで引き抜いておく。体位変換時に内視鏡を反転したままにしておくと、胃壁を突き破ることがあるからである。

 

2.上部消化管出血患者の内視鏡の見方

 

  胃十二指腸の潰瘍出血が疑われるときの内視鏡は、直視・細径のものを用いる。挿入時に食道静脈瘤・マロリーワイス症候群・逆流性食道炎がないかどうかをチェックする。胃内はあまり空気を入れないようにして通過し、まず十二指腸の深いところまで観察する。球部の観察は挿入時に十分行う。球部後壁は見逃しやすいため注意する.十二指腸に病変がなかったら幽門前庭部を観察し、そのまま胃内で反転させて胃角部・胃体部・穹隆部の観察を行う。胃内の出血部位として一番多い所は胃角上部から胃体上部にかけての小弯側後壁よりである。噴門部大弯側からの出血が疑われるときには、右側臥位に体位を変換し、観察する。十二指腸潰瘍出血で後壁からの出血であり、直視鏡で穿刺不能の時は側視か斜視の内視鏡を使用する。

 

  肝硬変の既往があり、食道胃静脈瘤からの出血が疑われるときには、最初から直視・大径の内視鏡に圧迫バルーンを装着し、透視室にて内視鏡を行う。まず食道下部・接合部の観察を行い、次いで胃内で反転させての接合部周囲・穹窿部の観察を丹念に行い、食道胃静脈瘤上の出血点(赤色血栓・白色血栓)を探す。

 

3.エタノール局注の適応

 

  胃十二指腸潰瘍・胃癌・マロリー=ワイスからの出血で拍動性の動脈性出血か、新鮮凝血塊を被った露出血管突出した新鮮露出血管があれば必ず純エタノール局注を行って、露出血管を潰しておく。凝血塊が多くて露出血管が確認できないときや血餅が付着しているときは洗浄して洗い流すか、洗浄チューブや穿刺針を用いての物理的除去もしくは内視鏡を用いての吸引により出来るだけ露出血管を探す。それでも凝血塊が除去できなければ、血塊中へエタノールを注入し、凝血塊を固めて露出血管を探してもよい。一旦止っている様に見えても、はっきりした露出血管であれば、3割の症例で再出血があるため、エタノール局注にて潰しておくのを原則とする。当院ではこの方針にて病棟における再出血はほとんど無くなった.

 

  エタノール局注したあとに、微出血が持続するか、再出血の恐れがあればN-Gチューブを挿入し、それより出血の程度を見ながら、マーロックス・アルロイドG20〜30mlずつ2〜3時間おきに注入する。再出血を余り考えなくてよければ、N-Gチューブは挿入せず、経口でマーロックス・アルロイドGを4〜6時間おきに飲ませる。

 

  当院では通常の潰瘍出血に対してはエタノール局注のみしか行っていない.その理由は

 1.エタノール局注は穿刺針と純エタノールさえあればどんな施設でもどんな田舎でも施行できる.当直に行くとき,または田舎の病院に赴任するとき,穿刺針純エタノールを詰めた小瓶を持っていさえすれば,急な消化管出血に対処できる.

 2.ヒートローブ法やHSE法の方が手技的にも容易であるが,ヒートローブ法の施行のためには100万円程度の器材が必要であり,田舎の病院では常備しがたい.またHSE法は手技的には容易であるが,露出血管を確実に潰す効果はなくDieulafoy潰瘍のごとき血管病変に対しての止血効果が弱い.

  以上の理由により当院での研修医にはエタノール局注の手技のみを徹底して教えている. 

 

4.エタノール局注のコツ

 

  胃十二指腸潰瘍・Dieulafoy潰瘍・胃癌などの露出血管に対する純エタノール局注は、内視鏡の先端を出来るだけ潰瘍底に近付け、露出血管根部に対し30〜60度の斜方向から行う。内視鏡の先端を出来るだけ露出血管に近付け、7時の方向から出る穿刺針は先端の針先のみが見える位置に置き、そこから勢い良く穿刺針を露出血管の根部周辺に突き刺す。ゆっくり刺すと穿刺針で潰瘍底を押す形になり、視野が遠くなるし、潰瘍底に十分穿刺できない。針をそのままにし、次に穿刺するところの方向に内視鏡を上下左右に少し動かし、穿刺針を抜いたらすぐ近傍に刺し直し、連続的な穿刺-エタノール局注を行う。出血が止っているときは周囲の潰瘍底の少し周囲より血管の根部を目掛けてエタノール局注を行う。活動性の出血があるときは血管根部に直接注入する。一回で0.1〜0.2mlの純エタノールを局注する。針を抜くときに穿刺孔より出血があれば血管を直接穿刺しているため、そこでエタノール局注0.1mlを追加し、針を引っ込めて外筒にて1〜2分圧迫し、さらに0.1ml追加して針を引っ込め外套にてしばらく圧迫した後に外套を